表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

828/910

第一次ノモンハン攻防戦<2>

皇紀2596年(1936年)3月6日 北満州 ノモンハン


 和製シュトルヒこと九五式指揮連絡機による隠密偵察飛行及び便乗した斥候を後方に送り込み深部偵察をさせて情報を持ち帰るなど篠塚支隊と第二方面軍の動きは活発化していた。


 報告内容から安易に増援を送っては兵力の損耗を招くだけと判断した第二方面軍は増派された戦力を戦場後方に出動待機状態で留め置いて専ら想定戦場の測量と工兵隊による戦場への工作活動に専念している。


 幸い無人地帯の半砂漠の大平原であることから民間人の犠牲が出ることはないと考えてはいたが、満州人や蒙古人の遊牧を考えると地雷原にするわけにいかないため、敵を想定戦場へ引っ張り出して工兵が準備した罠に誘導し、そこで敵を磨り潰そうとしているのだ。


 とは言っても、そうそう簡単に引っ張り出せる様な相手でもないと第二方面軍は認識している。モンゴル人民軍とて馬鹿でも無能でもなく関東軍の鉄壁の守りを崩せるとは思ってもいない。所詮は自国主張の国境線を実効支配するためにハルハ河を渡河して対岸に橋頭堡を作っているに過ぎない。


 だが、そうは言っても関東軍としてはそんな舐められた真似を許すわけにもいかない。いつまでも敵に居座らせるつもりなど無く、無敵皇軍の意地と面目を施すためにも敵新鋭戦車を叩き潰しておきたいのである。


 実際、快速な九四式軽戦車によって包囲殲滅や迂回挟撃といったそれで満蒙戦線における優位を確保し、満州領内に踏み込ませなかったという思い上がりがあったが、その伸びきった鼻をへし折られた関東軍にとって放置出来るモノではなかった。


 しかし、よく考えてみると国境線における小競り合い程度のことであり、問題視して事を構えるほどのことでもなかったと言えなくもない。所詮、敵は1個師団程度であり、本格的に侵攻するほどの装備や物資などを持っているわけでもない。それは深部偵察によって把握出来ていた。


 ある程度叩いて追い返せば済むだけのものであったはずなのだ。


 だが、関東軍にとって戦車の性能の差が戦力の決定的な差であると敵に自信をつけさせるわけにはいかなかった。しかも、篠塚支隊の損耗は兵員は兎も角、装備定数に対して3割であり、これは全滅と扱われる数字であったことも関東軍に引くに引けぬ理由を与えてしまっていたのだ。


 要は面子の問題なのである。


 軍の権威は無敵皇軍、100万関東軍とも言われる存在感であり、それを担保する勝利の凱旋を汚されたことは座視出来ない問題だった。


 投資やギャンブルにのめり込むそれと同じであるが、失った分を補う戦果を出さねばならない。実際は国民にそこまで求められてはいないが、自分たちの存在感や予算獲得を果たすためには目に見える成果を欲するモノなのである。


 それは新京の総司令部で指揮を執る側の論理でもあり、帝都三宅坂の組織の論理でもあった。


「陛下の赤子たる皇軍兵士が流した血は尊い。内地遺族の無念を思えば引くわけにはいかぬ」


 三宅坂の主である荒木貞夫陸軍大臣もまた督戦するかのように檄文を関東軍に向け飛ばす。無論、荒木の盟友である真崎甚三郎参謀次長も同様に軍令を預かる者としてそれに応える。


「戦場の恥は戦場に雪げ」


 本格的な開戦準備などまるで整っていないのに内地留守部隊の満州への移駐準備命令を出すに至る。


 流石にその事態に参謀総長である閑院宮載仁親王は荒木と真崎の前のめりな姿勢に掣肘するが、参謀本部は既に敵策源地であるタムスクへの爆撃を検討し始め、手始めに九六式戦闘機(キ27)をハイラルへ前進展開させることを決定してしまったのだ。


 帝国陸軍全体の総論としては敵討ち、現地部隊は慎重論、上級司令部と陸軍中央は積極論というバラバラな意思の元で作戦準備は進んでいくのであった。


 そんななか当事者である関東軍総参謀長である東條英機中将はある思いを口にしていた。


「これはいかん、前世支那事変の二の舞ぞ」


 職責として、陸軍士官学校の同期を助けるつもりで作戦を指導しているが、その本心では泥沼化に焦りを感じていた。


「一度大規模衝突をして手打ちを・・・・・・いや、それでは更に多くの血が流れてあの泥沼に再び嵌まり込む」


 一瞬であるが一撃講和論的な考えをするが、それでは結局損失を上回る利益を得るために賭け金を更に積み上げていくだけだ。だが、今まさに陸軍省と参謀本部(三宅坂)がしていることはそれそのものである。


 史実で自分たちがコントロール出来ずもがき続けたソレを対立した皇道派が主導して行おうとしていることが東條には滑稽に思えた。


「小畑、貴様がやろうとしているのは儂の失敗を繰り返しているだけだぞ」


 総司令部の自室の窓から帝都の方を見つつ呟く東條の表情はやるせなさが滲み出ていた。

クリエイター支援サイト Ci-en

有坂総一郎支援サイト作りました。

https://ci-en.dlsite.com/creator/10425

ご支援、お願いします。


ガソリン生産とオクタン価の話

https://ncode.syosetu.com/n6642hr/

鉄牛と鉄獅子の遺伝子

https://ncode.syosetu.com/n9427hn/

こちらもよろしく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] うわ、犠牲を考慮しない国に対して単独で最もやってはいけない方法を取りつつある。 第二戦線や内乱起こす当てが無いのに。 スペイン内戦に反映されたら史実以上にスペインが荒廃しますね。
[一言] 史実より早いノモンハン、この時期だと重戦車はT35か、T28辺りですかね。 37mmだと確かに待ち伏せでもしないと撃破は厳しそうです。 対ソ戦で実績のある真崎、林コンビのツートップだとイケ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ