DBA601という発動機
皇紀2596年2月11日 川崎航空機各務原工場
史実において帝国陸海軍はダイムラーベンツ社のDB600とDB601に注目し、これをライセンス化して運用しようと画策した。
その原点はHe118にある。ハインケル社の開発した試作急降下爆撃機であるHe118は同じく試作競作となったユンカース社のJu87と比較された。そして渡米してカーチス社の急降下爆撃機によって急降下野郎へと洗脳されてしまったエルンスト・ウーデット搭乗による試験が行われ、あわや事故死へ追い込みかけるという快挙を成し遂げてしまう。
元々急降下角度や運動性能の面でJu87に見劣りしつつも速度性能で選考に残っていたのだが、この墜落事故は挽回の余地を完全に奪ってしまったのである。
だが、不採用決定になるまでにハインケル社が試作機を複数製造していたこともあり、ドイツ第三帝国と接近を図っていた大日本帝国へと輸出された。試作4号機は帝国陸軍、試作5号機が帝国海軍へそれぞれ引き渡されることになったが、これが後年高速艦爆と称される彗星へ繋がる。
引き渡された試作機に搭載されていた発動機はDB600であり、ドイツ空軍を支えるDB601系列の基礎となった発動機であった。
帝国海軍はこのDB600のライセンスを愛知時計電機に行わせることとした。この経緯は後年DB601をライセンス生産する上での貴重な経験となり、同じくDB601をライセンス生産した川崎航空機と違い、生産時におけるトラブル回避や信頼性向上に繋がったと言われる。
しかし、この世界ではこのHe118はドイツ国内で開発されるという機会は失われた。原因はウーデットがカーチス社の洗脳を受けず、大日本帝国への出張を続けていたからだ。いや、正確にはカーチス社の急降下爆撃機の情報に彼が触れていないわけでもない。有坂総一郎からの依頼でダグラス社との交渉の為に渡米していることもあってアメリカ製航空機の情報はドイツ本国や大日本帝国にいるのと違い多く接する機会があった。
だが、アメリカ合衆国は超重爆へと突き進んでいた。そのため、カーチス社の急降下爆撃機は自然と少数生産されるに限られ、哨戒機兼用の役割を担う程度と成り下がっていた。
しかし、それは仕方が無い話でもある。そもそもこの時点でアメリカ合衆国が保有している航空母艦はレキシントン級2隻でしかない。レンジャーやヨークタウン級など存在し得た航空母艦は消え去り、史実では量産されることもなかったアラスカ級大型巡洋艦改めアラスカ級戦闘巡洋艦が太平洋や大西洋にその姿を見せつつあったのだから。
航空母艦が存在しなければ艦上爆撃機の存在も成立し得ず、自然と艦載機は戦闘機と雷撃機へと絞られる結果となった。
話が逸れてしまったが、DB600の渡来という機会はこの世界において失われたのだが、川崎航空機のキ28改という意欲作によってDB601が見いだされ、ドイツにおいてその交渉が行われたことで史実よりも相当に早くDB601が渡来することとなったのだ。
しかし、DB601は本来ドイツ空軍向けのモーターカノン搭載を前提としたものであり、それが故に日本側が必要とする条件を満たしていないこと、そしてモーターカノンを搭載するために工程上の複雑さや強度面の問題などがあった。
そこで、ダイムラーベンツアリサカ社の日本人役員の提案でDBA601がライセンスされることとなった。これは日本側にとって不要なモーターカノン仕様を廃して、それに伴う工程簡略化や材質変更による強度向上、実用上必要な部分以外への戦略資源(銅やニッケルなど)使用を極力抑えた形での材質変更が行われた戦時設計の発動機となっていた。
材質変更や強度向上によって若干の重量増となった部分があり、また代用材の積極仕様もあって元の1200馬力から1100馬力へと低下していたが差し引きで考えれば十分な性能を維持していた。また、オクタン価87での運用設計であったことからオクタン価95~96での運用時には1175馬力程度を発揮すると計算され、アメリカ合衆国産のオクタン価100燃料を活用した場合は1250馬力程度まで向上すると計算されている。
尤も合衆国産燃料の調達の見込みは殆ど無いため、設計標準のオクタン価87もしくは生産の目処が付きつつあるオクタン価92の航空燃料が用いられることになるだろう。
設計や構造の見直しによって余裕が出来たことから将来的には1400馬力程度まで向上させることが可能であると予測は出ており、排気量34L台というそれは32L台の金星発動機と37L台のハ5との中間でもあり程よいサイズであると川崎航空機側では認識されていた。
キ28で元々搭載していたハ9は44L台の排気量ではあったが、性能限界と改良の余地の少なさからも新しい血を入れる必要があったことからDBA601は丁度良かったのである。
だが、問題は原型発動機のDB601は川崎航空機側の不馴れなV型倒立発動機であった。しかし原設計の時点で元々の倒立からDBA601は設計をやり直され、正立化が為され、日本向けの仕様へ改良されていた。そのため評価は高くとも未だ採用例はなく、実質的にキ28改がその初の搭載例となったことである。しかし、川崎航空機側にとって不慣れな倒立ではなく、BMW-Ⅵやハ9などで慣れている正立発動機であるDBA601の導入はそれほど高いハードルにもならず、意欲を持って取り組むのに十分な代物であった。
史実でもDB603を正立化したMB503が存在するが、それの先取りと言える。尤も、MB503の44L台と違い、34L台であるからパワーの違いがあるが、戦闘機に搭載する分にはこれで十分なのである。
DB 601Aa
タイプ:液冷倒立V型12気筒
ボア×ストローク:150mm×160mm
排気量:33,929cc
全長:1,722mm
全幅:705mm
乾燥重量:610 kg
燃料供給方式:直接噴射式
過給機:遠心式スーパーチャージャー1段1速
加圧冷却方式:ウォータージャケット内で3.8気圧に加圧
離昇出力
1,175HP/2,500rpm
DBA 601A
タイプ:液冷V型12気筒
ボア×ストローク:150mm×160mm
排気量:33,929cc
全長:1,750mm
全幅:720mm
乾燥重量:650 kg
燃料供給方式:直接噴射式
過給機:遠心式スーパーチャージャー1段1速
加圧冷却方式:ウォータージャケット内で3.8気圧に加圧
離昇出力
1,100HP/2,400rpm
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