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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

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理屈と感情の狭間

皇紀2596年(1936年)1月18日 ドイツ国 ハンブルク


 史実以上に英米間の軍縮への認識と方向性の隔たりはこの世界では深刻化し結果として史実よりも早く無条約状態にはなっていた。しかし、各国が無限の建艦競争に突入することを妥結された条約が抑止していたことと紳士協定的に条約体制を継続していたことで35年12月31日までは代艦建造までに保たれていた。


 しかし、36年1月1日、年が明けると同時に大英帝国が先頭を切って新戦艦の建造を始めた。これは各国に正式に無条約時代突入を自覚させるには十分な出来事であったのだが、実際には大英帝国と同様に各国海軍は内部研究という形で新世代戦艦の建造計画はスタートしていたのである。


「我が大ドイツも再び大海艦隊を北海にバルト海に浮かべるときがきた。幸いにも英独海軍協定によって3万5000トン級戦艦の建造は認められている。屈辱のヴェルサイユ体制打破に向け、我々は行動しなければならない。その第一歩は先のラインラント進駐において踏み出されている」


 ドイツ首相アドルフ・ヒトラーはハンブルクにあるブローム・ウント・フォス社の造船所に赴き起工式において熱っぽく演説をぶつと聴衆はその熱狂で応え、それヒトラーも上機嫌な表情で応える。


「我々は東洋に山東半島という拠点を再び得た。欧州大戦の時、大日本帝国に奪われたが、その大日本帝国が今度は献上してきたのである。知っての通り、東洋艦隊を我々は青島に送り込み、その権益を確たるものとしているが、残念なことに我々には海軍力が足りない。再び得たこの地を失わないためにも海軍の建設は重要であり、余は海軍建設に手を抜くつもりはないと諸君に約束しよう」


 政権基盤の不安定なナチ党政権にとって国防軍という大票田は抑えておかねばならないものであり、特に亡命皇帝ことヴィルヘルム2世が海軍重視であったことから海軍の帝政復古派を懐柔する意味でも新戦艦の建造は効果的であった。


 そのため、議会において3万5000トン級戦艦の4隻建造を政府側提案という形で提出され、その戦艦を効果的に運用するために補助艦艇整備の予算も計上されていたのである。


 ヒトラーは演台を降りるとエーリッヒ・レーダー提督に歩み寄り彼と固く握手を交わし肩を叩いて激励する仕草を聴衆に見せつけることで政府と海軍が一体になって艦隊建設に取り組むと印象づける演出をしてみせたが、これもまた海軍兵士へのアピールであった。


 しかし、それに苦々しい表情を浮かべている者もいた。


 カール・デーニッツ提督である。彼は潜水艦論者であり、レーダーと違って水上艦艇にそれほど魅力を感じてはいなかった。必要性は認めるが、欧州大戦の時と同様、潜水艦によって敵国のシーレーンを脅かし、徹底的な海上封鎖をすべきだと考えていたからだ。


「3万5000トンどころか4万5000トンにも達するデカブツじゃないか。そんなものより潜水艦を100隻造る方が効果的だろうに・・・・・・仮に対英戦争を覚悟した場合、300隻は必要だ・・・・・・だが、今はどれだけあるというのか・・・・・・」


 復活した潜水艦隊司令官を担うだけにデーニッツは頭が痛い。確かに戦艦は海軍戦力の象徴であるが、ドイツという国家の海軍戦略を考えると本質的には必要性は薄い。特に仮想敵国は大英帝国であり、大英帝国は海上交通が国家生存の生命線である。そんなことを欧州大戦の時に教えてやったのは他でもなく帝政ドイツ海軍だ。


「一体、首相もレーダー提督もどこを向いて海軍を語っているのか・・・・・・」


 しかし、始めたモノは止めることが出来ない。それを出来るのは最上位にある者だけだ。

だが、その政治的最上位(ヒトラー)は海軍戦力を政権基盤の安定剤として、海軍指揮最上位(レーダー)はイギリス海上兵力に対抗出来る艦隊を創設するという大海艦隊復活を望んでいる。海軍建設という同じ方向性だが、同床異夢も良いところである。それはデーニッツから見て戦争出来る海軍には到底思えなかった。


 兎にも角にもドイツにおいても新戦艦の建造がスタートした。特にラインラント進駐という成功に酔っているドイツ国家にとって新戦艦の建造は文字通り甘い夢であるだけに誰も止める者はいなかった。


 そう、デーニッツ自身も理屈では適切ではないと思いつつも新戦艦建造そのものを感情が否定出来ないからだ。それは海軍軍人のサガであると言っても良いだろう。


 艦政側からの出席者から建造計画の概要が説明され、その内容に聴衆はまたどよめく。16インチ砲の搭載が発表され、先行したキング・ジョージ5世級戦艦よりも主砲口径が大きく、打撃力に優れることが熱狂する聴衆を更に燃え上がらせたのである。


 無論、全てがその概要で語られているわけではなく、偽装されたモノでもあったが、それでも大艦巨砲主義において仮想敵国の戦艦よりも砲戦能力で優れることは優位に立つことと同義であるだけに翌日の朝刊を通じて発表される内容でドイツ国民が熱狂するであろうことは容易に想像出来たのであった。



 ビスマルク級 諸元


  基準排水量:4万5000トン 公称3万5000トン

  満載排水量:5万5000トン

  全長:251.1m

  最大幅:36.0m

  吃水:9.3m

  機関:ワーグナー式重油専焼高圧型水管缶12基

  主機:ブラウン・ボベリー式ギヤード・タービン4基4軸

  推進器:スクリュープロペラ×4軸

  出力:15万馬力

  最大速力:28ノット

  航続距離

  16ノット 10000海里

  28ノット 4500海里

  兵装

   52口径40.6cm砲 連装4基

   55口径15cm砲 連装6基

   65口径10.5cm砲 連装8基

   83口径3.7cm砲 連装8基

   65口径2cm砲 4連装8基

クリエイター支援サイト Ci-en

有坂総一郎支援サイト作りました。

https://ci-en.dlsite.com/creator/10425


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― 新着の感想 ―
[一言] 史実から足を減らし火力に回しましたか。 ノースカロライナ級を除いた日米ソの新型戦艦しか比肩乃至凌駕する物がない……。 ゴタついてる仏が対応したとしても軽巡や駆逐艦の更新が遅れそうですね。…
[一言] 新型ビスマルク誕生! 英国の対応次第とも言えますが、やはりドイツは史実よりもかなり優位と思いますが・・・。 と書こうと思いましたが、まだソ連周辺の動きが不透明でしたな。
[良い点] いつも楽しく拝見しております。 技術と産業の革新がおもしろいです。 第818部「理屈と感情の狭間」では三者三様の思惑と情熱が交錯するのが小説的でした。 ヒトラー、レーダー、デーニッツの視線…
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