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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

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ラインラント進駐

皇紀2596年(1936年)1月 ドイツ国


 ラインラント進駐――史実においてアドルフ・ヒトラーとドイツ軍はラインラント進駐に対して注意深く慎重に事を進めた。彼らにとって一種の冒険であったからだが、当時のドイツ国防軍の軍備ではとてもではないが100個師団に及ぶフランス軍への手当など出来ないと分かっていた。


 しかし、冬季演習の名の下にフランス政府及び官庁が休みとなる土曜日に進駐を実施して出し抜くことに成功してしまった。その後、フランス政府も事態への対応に動き出すが、初動の遅れと意思の疎通に問題があり、政府と軍部の連携を欠き実効性のある手を打つことは出来ずにいたのだ。


 実際にヒトラーやハインツ・グーデリアンなどドイツ側当事者はラインラント進駐からの48時間を不安であったと証言し、フランス側が何らかのアクションを起こした場合尻尾を巻いて逃げ帰る腹であった。だが、予想に反し、フランス側が軍事的アクションを起こすことなく国際連盟への提訴という外交的な圧力を掛けるという選択を取ったことでドイツの冒険的行動は成功してしまったのであった。


 さて、この世界でもヒトラーはラインラント進駐を決意し、史実よりも早い段階で同様の行動を開始したのである。


 史実では歩兵19個大隊がラインラントへ進駐したのであるが、ヒトラーはフランス政局を見定め、またスパイ網からの報告によって国境周辺にはまともな遊撃戦力がないことを把握していたことから、堂々と師団単位での進駐を開始したのであった。


 新年を迎えたばかりの1月3日金曜深夜、複数の歩兵師団は十分な武装を有した戦力として行動を開始、主要都市であるアーヘン、トリーア、ザールブリュッケンへ進駐し、帯同した工兵連隊によって兵営を建設し始めたのである。


 特にザールブリュッケンに進駐した部隊は歩兵も協同して野戦築城を開始し、機械化工兵の威力もあって一夜城を築き上げてしまったのであった。フランス側の対応が後手に回っている間、ドイツ側の対応は素早く、ライン川を越えて後詰めが続々と送り込まれ、同時にトラック輸送によって”竜の歯”と呼ばれる防御用コンクリート障害物が次々と運び込まれ、国境線にそれを敷き詰めていくことであっという間にカールスルーエ-ルクセンブルク間に要塞線が構築されてしまった。


 あらかじめライン川以東のドイツ主権地域において”竜の歯”を量産化し、それをトラックへ積み込み、国境線に延ばしたアウトバーンを利用して一気に送り込んで構築することでフランスの介入を防ぐというものであったが、偵察にきたフランス軍がそれを発見したことですぐにジークフリート線の存在は効果を現す。


「国境地帯に要塞線が突如出現、侵攻経路の確保は困難」


 この偵察情報はフランス政府に軍事的アクションを失わせるには十分なモノだった。続報としてバーデン方面への偵察部隊からも入り、バーゼル-カールスルーエ間のライン川東岸地域にも同様に”竜の歯”が至る所に設置されていることが判明したのである。


 ライン川東岸地域のそれについては以前から設置は行われていたのだが、草木によって隠蔽されていたモノを一斉に伐採と草刈りを行うことで一夜城的演出を行うことで突如出現したかのように印象づけたのであった。


 ここまで用意周到に出来たのはヒトラー政権の政治的基盤の不安定さによる国防軍取り込みが理由に挙げることが出来るだろう。議会第一党とはいえども、その実、帝政復古派を内部に抱えていることで場合によっては、彼らが欧州大戦の英雄で帝政復古派の受けが良いヘルマン・ゲーリングを担ぎ上げかねなかったからだ。


 国防軍を懐柔することで帝政復古派の伸張を抑えようという意図がヒトラーに国防軍への予算配分を優遇する方針をとらせ、西方防衛の要としてジークフリート線の整備に繋がったのである。


「ジークフリート線は思いの外効果を発揮したようだ。雇用対策にも繋がっておる。このまま暫くは継続して行うとしよう」


 アウトバーン建設と大量のコンクリートブロック製造は土建業界を中心に雇用を拡大させ、また、動員される労働力と資材を効率よく輸送するため、鉄道運行も最適化と高速化が進められることとなったのだ。


 折しもフリーゲンダー・ハンブルガーに発祥する高速ディーゼル列車群がドイツ各地において高速旅客輸送に活躍し始めており、ジークフリート線に関係する労働者たちにはこれに乗車し、バカンスやベルリンなど大都市への遊興を許されていたことで都市間輸送能力の増大がドイツ国営鉄道に大きな運賃収入をもたらしていたのである。無論、同時に貨物列車の大増発によって機関車製造メーカーもフル操業となり、軍需輸送が活発化しつつあった。


 一度景気回復基調に乗ったドイツ経済は需要が刺激され、それに合わせて供給が拡大することで更に景気が刺激されるという好循環を迎えたのであるが、それによって恩恵を受けていたのがスイスやイタリアと言った周辺国である。


 バカンスで周辺国へ訪れたドイツ人をターゲットとする商売が拡大し、また、購買能力が上がったことでイタリアの名車アルファロメオなどが積極的に輸入される様になったのだ。


 尤もこれはベニト・ムッソリーニが積極的に誘致し、自身の趣味と実益を兼ねてドイツ向けへアピールしていたことが大きい。アルファロメオを運転するムッソリーニ(ドゥーチェ)がドライブの途中で立ち寄ったアルプスの牧場で搾りたての牛乳を笑顔で一気飲みする姿や復元したローマ式浴場におけるくつろいだ姿をニュース映画などに盛んに広告させたのである。


 周辺国でも人気が高く、評価の高いムッソリーニ(ドゥーチェ)が積極的に広告するそれによってイタリア人気がドイツで高まることによってドイツの資金がイタリアへ投下されるという流れを作り、イタリア製ブランド品なども多くがドイツへ流れていった。


 ミュンヘンからインスブルックを経由してヴェネチアへのアウトバーンも建設が進み、これによって独墺伊の経済的結びつきが強まっていったが、これによる副次効果でオーストリア共和政府がオーストリア正統政府に遂に屈服し、オーストリアが統合され、再び帝冠の地へと回帰したのであるが、それはまた別の話であり、ここはドイツの話へ戻ろう。


 兎にも角にもドイツは経済復興を遂げつつあり、その一環としてラインラント進駐が行われたが、大英帝国やイタリア王国はそれについて特にアクションを起こすことはなかった。


 彼ら周辺国の視線はフランスの御家騒動(連続する政局)と東欧の赤化に注がれており、ドイツがその防壁として機能することにこそ期待をしていたからだ。無論、英伊の態度はフランス人民の失望に繋がるのであるが、そもそも英伊もまたフランス国家へ失望していたのでお互い様であると言えよう。


 さて、いずれにしても賽は投げられた。ドイツの冒険に英伊は静観し、フランスは内部分裂の危機にある。彼ら西側、列強に属する各国が結束することなく自国の都合を押しつけ合っているその横で真っ赤に染まった氷の大地、広大なフロンティアを持て余している自由の大地もまた動きを止めてはいなかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 史実では50年に登場するのですが一人用チェーンソーの有無。 [一言] 独に限らず失地回復必死ですから混乱は願ったり叶ったりでしょうね。 屋内外作業効率UPの為軍手の導入は有りかもしれ…
[一言] 直接関係ない話ですが、アルファロメオというとエンジンを楽器になぞらえてそのエンジン音を聴いて調律する調律師がいるとか。 だからアルファのエンジン音は芸術的なのだと昔の会社の同僚に居たアルファ…
[気になる点] 帝政復古となれば併合は無いな。 そもそもこの世界でオーストリア併合言い出したら、ドイツも帝政復古って話が先に出る。 完全にカエルを茹でるだけのラインラントやん。
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