大ローマの幻影を追い続けて
皇紀2596年1月 イタリア王国
政争、政局から始まったフランスの受難を横目にイタリア王国はムッソリーニによる大ローマの復興による経済成長が続いていた。
29年から始まっていた新戦艦の建造も一段落した形で遂にその姿を地中海へ知らしめるに至った。建造期間が長かったのは造船能力の不足による部分もあるが、公共事業として多くの工員に仕事を与えるためであった。
造船施設が拡充されると新戦艦建造で経験を積んだ工員たちが各地の造船施設へ配分され、また多くの工員たちの実地教育として彼らを育てるために大きく寄与した。戦艦建造に携わったという自負と経験は工員たちの財産となり、他の艦艇建造に大いに役立つこととなったのだ。
新戦艦の性能は長らく秘匿されていたが、艤装が済んだ時点でようやく国内向けに公表され、地中海世界最強というプロパガンダとともに親しまれることとなったのだが、その艦名もまた大ローマを象徴するようにリットリオと命名された。文字通り公権力の象徴、結束の旗手であった。
リットリオ級はその公表の後、慣熟と親善を兼ねて地中海世界を巡ってその存在をアピールしたのであるが、建造期間が長かったことで艦体は兎も角、上部構造物がその時々の情報でアップデートされたことで第3.5世代戦艦として実質的に第4世代に準じた性能を持つ戦艦として仕上がっていた。
30年のロンドン軍縮会議に基づく英伊海軍協定で15インチ砲を4隻分の40門提供されるとこれらを装備する設計案が承認されたが、実際は自前で50口径15インチ砲を開発して装備したのである。大英帝国からの供与された42口径15インチ砲はメッシーナ海峡のイタリア本土側に集中配備され海峡要塞を構成し、海峡を行き来する船舶に睨みを利かせている。
これはシチリア島が敵の前身拠点として利用された際に海峡を渡らせないためのものであった。新世代砲が出来上がっているのに他国製の旧世代砲を新造戦艦に使うよりも要塞砲に転用した方が効率が良かったのだ。
「おい、あの砲身、譲った奴よりも長いんだが」
地中海巡回でマルタ島に寄港した際に駐留英軍からの報告でローマ駐在大使はすぐにムッソリーニに問い合わせをしたが、その回答は余りに素っ気ないモノだった。
「いやぁ、アレ古いからさ、試射したらウチで研究中だった試作砲の方が優秀だったからリサイクルしたんだよ」
大英帝国は英伊海軍協定によって新戦艦の性能を42口径15インチ砲を規準に見積もっていただけに慌てることとなったのだ。
「イタリアの新型艦、16インチ砲並の能力があるんじゃないか?」
これは計画案が了承され、物資集積が始まっていたキング・ジョージ5世級に対してアップデートする余裕がなく、結果として能力不足の14インチ砲という欠陥を抱えることとなってしまったのである。
とは言っても、16インチ砲へ換装することはまだ間に合う頃合ではあったが、条約の範囲内で抑えるには難しく、今になって建造中に主砲換装することを宣言などしたらアメリカ合衆国につけ込まれる隙を見せるだけであっただけに苦虫を噛み潰したような表情でそれを是認するほかなかった。
文字通り大英帝国にとっては踏んだり蹴ったりといった状態であるが、仕方がない。条約破りを最初にやらかしたのは他でもない大英帝国であったのだから。
年が明け、36年春には2番艦以後も続々と就役するため、これによってイタリアの戦艦保有数はリットリオ級4隻、シチリア級2隻、コンテ・ディ・カブール級2隻、カイオ・ドゥイリオ級2隻の合計8隻体制になる。尤もコンテ・ディ・カブール級2隻は譲渡を予定されているが、それを遵守する必要が条約明けによって実質的にはなくなっていた。
そして、ムッソリーニは空きの出来た造船施設に水上機母艦と航空母艦の建造をそれぞれ命じるのであった。
永野修身大将が欧州派遣艦隊司令長官当時にムッソリーニへの進言したことによるものだが、これによって水上機研究がイタリア海軍では進められ、カント Z.506アイローネを軍用機へ改装し、爆弾・魚雷搭載能力1.2トンというそれを目下開発中であり、これを運用するべく水上機母艦を望まれたのである。
「水上機であれば地中海においてどこでも使える。そして水上機母艦によって運用出来るのであれば敵地侵攻においても役立つことだろう。また飛行艇の搭載能力は陸上爆撃機と比べても遜色ない」
ムッソリーニの視線がどこに向けられているか、この言葉だけでも推測出来ようというものだ。彼の視線の先にはギリシア、クレタ、キプロスがあり、そしてエジプトがあった。
これらに侵攻しようとすれば艦砲射撃だけでは侵攻軍を支援することは出来ない。まして陸上機では航続距離が足りず役に立たない。しかし、水上機や艦上機であれば、それが可能なのである。
「戦艦の次に水上機母艦と航空母艦が揃うことで大ローマ海軍が復活するのである」
議会における演説で高らかに謳い上げると議会は大歓声でこれを支持し、第二次艦隊法が可決された。また一歩、ムッソリーニの戦争準備は進むのであった。
リットリオ級 諸元
基準排水量4万2000トン
満載排水量4万6000トン
全長237.8m
最大幅32.9m
吃水10.4m
主缶ヤーロー缶×8基
主機オール・ギヤードタービン×4基
推進器スクリュープロペラ×4軸
出力14万馬力
最大速力30ノット
航続距離
20ノット 4000海里
兵装
50口径15インチ3連装砲×3基
55口径6インチ3連装砲×4基
55口径9cm単装砲×12基
54口径37mm連装機関砲×10基
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