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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2595年(1935年)

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本音と建前と浪漫と懐具合と

皇紀2595年(1935年)11月 帝国海軍事情


 帝国海軍は軍縮条約の基準内で潜水艦戦力増強を進めている。水上艦の整備は史実と比べると遅れ気味になっているが、潜水艦戦力については遅れ気味の水上艦と違い、順調に進められているのであった。


 それもそのはず、海大型潜水艦の各型式が建造が進められている中で、ブロック工法が採り入れられたことで1隻あたりの船台上における工程が削減され、3年掛けてゆっくり建造されていた史実と違い、モジュール構造のために船台においての工事期間は非常に短く、最短3ヶ月程度で進水するという戦時体制同然のそれで次々と建造が進められている。


 帝国海軍潜水艦は各工廠で建造が進められているが、横須賀工廠の建造ペースは他の工廠よりも速く、平均3ヶ月で進水するというものであった。呉工廠は4ヶ月、佐世保工廠は6ヶ月、舞鶴工廠は7ヶ月というそれであったが、これにはカラクリがあるのだ。


 横須賀工廠の対岸にある木更津にある有坂重工業の工場で仕上がった区画モジュールを船舶輸送によって横須賀工廠の船台近くまで海上輸送しているからである。また、三菱重工業の横浜造船所からも同様に区画モジュールが海上輸送され、輸送距離の短さと同様のモジュール生産拠点が東京湾にいくつかあることで結果として建造ペースが格段に速くなっているのである。


 逆に舞鶴工廠や佐世保工廠はこういったモジュール生産拠点が少ないことから工廠内における製造割合が増えることで建造速度が横須賀工廠に比べると落ちているのであった。


 呉工廠はそれでも頑張っている方であるが、ここは地理的な理由で海上輸送ではなく鉄道輸送によって工廠までモジュールを輸送している。隣接する広工廠に工場を新設し、ここで生産しているのだ。また、広工廠へは四国の今治造船、相生の播磨造船、玉野の三井造船などから部材及び一部モジュールの海上輸送が行われている。


 意外に思われるかも知れないが、この潜水艦増強には川南工業は一切関与していない。ブロック工法と大量建造と言えば川南工業という代名詞がこの世界でも鳴り響いているが、社長の川南豊作は海軍省からの潜水艦建造依頼を蹴っていたのである。


「あんな生産性の悪いものウチで造る意味なんてない。ウチにはウチにあった特殊潜航艇(モノ)をやらせてくれたら良い。なに1隻15万円で月産100隻仕上げてみせるよ」


 川南の言葉は史実における蛟龍の建造において各社合計月産80隻を目標にしたそれを示している。


「作戦海域は限定的であるが、米ソ交通遮断にカムチャツカ沖やオホーツク海に潜ませれば良いのだ。あとは大型の補給潜水艦や潜水母艦を建造して行動範囲の拡大を狙えば良い」


 川南が出した海軍側への回答の裏にはA標的建造に絡んだ艦政本部との取引があった。A標的は元々艦政本部に着任した岸本鹿子治大佐が積極的に推進した魚雷型潜水艇構想に端を発する。


 岸本は酸素魚雷開発にも関わり、同時期に世界初の酸素魚雷実用化という快挙を達成した魚雷の専門家であった。


 32年に提案された試案では史実通りの3つの案が検討されたが、第二案の――ディーゼルエンジンのみを搭載し、水中速力30ノットを発揮し500海里を行動出来ること、水上速力25ノットを発揮し300海里を行動出来ること――というそれが採択されたのである。これほど野心的なそれには誰もが実現性に疑問符をつけていたが、来航するアメリカ太平洋艦隊の戦艦の速力20ノットを上回るそれで優位な場所からの待ち伏せを実現するためには必要と判断されたのである。


 蓋を開けてみると意外ではあったが、目標値に迫る水上速力24ノットを達成し、水中速力も25ノットを発揮するに至りA標的と仮称され秘匿兵器とされた。


 この結果は海軍上層部を大いに満足させるとともに金食い虫の潜水艦建造ではなく、A標的を基礎とする高速小型潜水艇を量産し、それを運用する母艦を建造、これに1隻あたり12隻程度を積載し、敵侵攻ルート上に展開させ群狼戦術により包囲殲滅しようという作戦運用が立案されたのである。


 だが、それが面白くない者もいる。


 潜水艦運用の大家と自任する末次信正大将はこれに懸念を示すが、海軍上層部にとっては金食い虫の代用品が漸減作戦の一翼を担うならそれで良しと末次の懸念を握り潰したのであった。


「長大な航続距離と多数の魚雷兵装こそ潜水艦にとって最大の武器である。中途半端な魚雷モドキでは代用になどならぬ」


 末次は一言だけ不満を漏らしたが、干渉しない代わりに従来通り海大型の建造を確約させていた。末次はブロック工法による生産効率化によって36年までに海大型35隻、巡潜型8隻を確保することで潜水艦哨戒網の確立を目指していたのだ。


 特に海大型の後継でもあり、司令部・哨戒潜水艦としての巡潜型には並々ならぬ期待を掛けていたのだ。


「潜水空母こそ次世代の潜水艦の有り様だ。魚雷モドキなどとは違うのだ。戦争は二次元ではなく、三次元に進化しているのだ」


 末次は麾下の提督らに演説をぶったが、それに賛同する提督も多く、パナマ運河封鎖を真剣に研究し、そのためには潜水空母艦隊の建設が必要と主張していたのであるが、それを邪魔するとしか思えない特殊潜航艇(魚雷モドキ)の量産化というそれで彼らの希望は通らない。


 尤も、軍縮条約による潜水艦保有量も限界まで達していることもあり、欧米を刺激しかねない巨大潜水艦建造を海軍省が渋るのは当然のことではあった。それ故に軍縮条約に抵触しない特殊潜航艇(魚雷モドキ)というウルトラCは海軍省にとって非常に都合が良かったのである。


 それぞれの思惑により帝国海軍の潜水艦ドクトリンは迷走を始めるのであった。

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[気になる点] それが潜高に行き着けばよいのだが・・・
[一言] 個人的には特殊潜航艇は人材の無駄遣いな気がするんですよね。 船は安上がりかも知れないですが、乗り込むのはその安い値段の船とは比較にならない将兵ですからね。 特に日本みたいに究極的には資源が人…
[気になる点] 磁石の性能は史実通りか。 特潜の居住性や魚雷の小型化等に関わるので。 [一言] まだ光海軍工廠置かれてないんですね。
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