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帝都密談<2>

ここ数日、とんでもない勢いでブックマークなどしていただいており、驚いております。

更新はまちまちではありますが、今後とも宜しくお願い致します。

皇紀2581年(1921年)10月28日 帝都東京


 有坂総一郎と宮田中将は工場視察の後、有坂邸へ移動し会談を持った。


 俗にいう接待、いや、事実上の贈収賄になるのだろうが、両者の認識ではそもそも欧米企業しかまともな工作機械を納入出来ないのだから問題になるとしても代理店契約している三菱や三井などが苦情を言ってくる程度だろうと割り切っていたのだ。


「中将殿、先程までの視察でご理解いただけたかと思いますが、帝国の工業力は所詮は欧米列強のおさがりによって成り立っているわけであります……斯様な状態で先の欧州大戦の様な戦争に帝国が本格的に踏み込んだ場合、どうなるか……ご理解できますね?」


 総一郎は核心からズバッと斬り込んだ。


 宮田も現場を知る人間であり、有坂重工業の工場と陸軍工廠の違いを理解せざるを得なかった。それだけに総一郎の言葉の重さをかみしめていた。


――こ奴はまだ若いにもかかわらず斯様な視点でモノを語る……いや、それだけでなく、これから何が起きるか知っているかのような振る舞いをしておる……一体何者であるのか……。


 宮田は総一郎の言葉に頷きつつ、相手の素性を推し量ろうとしていた。


「中将殿は日露戦争の後、技術畑へ転身されたと聞き及んでおります。それは旅順や奉天などの一大会戦で物量をぶつけ合う近代戦を直に体験した故、今後の戦争の行く末を案じたからではありませぬか?」


「左様……。有坂よ、貴様、よくこの俺を観察しておるな……」


「でしたら、話は早いと思いますが……今後の戦は、精神力や個人の技量や熟練ではなく、ただただ物量のぶつけ合いだと断言致します。であるならば、我が帝国も、それに応じた工業力と動員力を兼ね備えなくてはなりませぬ……その先駆けになっていただきたいのです……」


「……そのための小倉工廠か?」


「その通りであります。帝都は既に手狭となっておりますので、いずれ移転させねばならんでしょう……そして、小倉は製鉄所のある八幡から至近であります……」


「貴様の進言、手を回してやるが、俺にも出来ることは限られておる。そうだな……紹介状をいくつか書いてやる故、それを持って陸軍省、参謀本部に赴くとよいだろう……」


「大変助かります……」


 二人は固く手を握り合った。お互いの腹の内は見せ合ってはいないが、彼らは目的を同じくする仲であると確信したようであった。


――有坂には今は恩を売っておこう。いずれ我が陸軍に貢献してもらわねばならぬしな……。今後、軍縮条約との兼ね合いもあって海軍とは予算の奪い合いが起こるであろうし、その時には省益のため尽くしてもらわねばな……。


――中将殿が陸軍技術本部にいる間は大いに役立ってもらわねばな……薩長閥の排除も必要であるし……。


 その後、二人は杯を傾けた。


 総一郎は、酒に酔いながら今後の展望を語った。勿論、重要な部分を意図的に隠しながら……。


「時に中将殿……。シベリア出兵ですが、如何お考えでありましょう?」


 宮田は眉を吊り上げた。一体何を言い出そうというのか?という表情だ。


「貴様も知っておる通りだ……あまり良い情勢ではないな……。コルチャーク軍が崩壊し、白軍は勢いを失っておるし、尼港事件も起きておる……」


「もし、我らが大量の武器弾薬を派遣軍へ投下出来れば……状況は変わりませぬか?我が皇軍が反転攻勢に出たとなれば、撤兵を口にする欧米も状況の変化から……」


 宮田は固まった。


「中将殿、実は……斯様な兵器を準備しております……」


 総一郎は図面を取り出すと宮田の前に置いた。


――これは……三八式歩兵銃……いや、何か違う……。


 宮田は首を傾げた。


「これは自動小銃です。5連発クリップを2個用いて10発装填出来、引き金を引くだけで自動装填と発射が可能なものです……7.7mm弾を予定しております」


「欧州で研究開発されているというアレか?」


「左様です……あと……こちらを……」


 総一郎はもう一枚の図面を見せる。宮田の表情はさらに変わった。


「これは短機関銃で、8mm拳銃弾をダブルカラムマガジンに30発……マガジンが銃身の横に装着されるので伏せ撃ちも可能です……如何でしょうか?」


「これらを大量供給出来るならば……湧いて出てくる赤軍やパルチザンを薙ぎ払うことが出来る……拠点防衛もより容易になる……有坂、これを量産しろ!制式化など待つ必要はない!」


 宮田の言葉に総一郎の目が光った。


「お任せを……」

四式自動小銃と一〇〇式短機関銃を早期登場させます。


この時期、史実でも自動小銃の研究開発は行われておりましたが、軍縮による予算緊縮や陸軍上層部の無理解などによってそこそこ使えるはずの試作品がポシャっています。


仮にこの時期に量産化されていたとしても、三八式歩兵銃同様に量産性や互換性に大きな問題があるため、どこまで活躍出来たかは疑問が残るのですが、もし、採用されていたら、物量戦にもう少し余裕を持つことが出来たのではないかと思います。


なんというか、兵器の開発史を調べると、一貫性のない開発ばかりで、呆れますね。ええ、今の政府や防衛省、自衛隊のそれも帝国陸海軍と同じミスを繰り返していますけどね……。

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