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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2595年(1935年)

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背筋をつたう冷たい汗

皇紀2595年(1935年)7月8日 アメリが合衆国 ワシントンDC


 ”空飛ぶ列車砲”演説はアメリカ航空産業へ大きく影響を与えることとなった。演説翌日のニューヨーク株価は超重爆を受注していたボーイング、ダグラスの2社はストップ高となり、グラマン、ノースロップ、コンソリデーテッド、 ノースアメリカン、ロッキードなど大型機を製造可能な各社も大きく株価を伸ばしたのである。


 株価が大きく動いたことで工場増設や部品供給など需要創出が期待出来そうな業種もまた付随して株価を伸ばしていった。その株高祭りはその後も順調に株価を押し上げていった。


「ほぅ、今日も証券市場は思っていた以上に景気が良いな。明日以後もこの調子で株高になるだろう」


 米大統領フランクリン・ルーズベルトは朝刊の市況を確認して満足そうな笑みを浮かべつつホワイトハウス特製の朝食を摂っていた。ニューディール政策という目玉政策も投資家たちには受けが悪く株価は低空飛行を続けていただけに自然と笑みが浮かぶというものだ。


「今日の閣議は機嫌良く進行出来そうだな。そうだろう、ヘンリー」


 朝食会に呼ばれていた財務長官ヘンリー・モーゲンソーは黙って朝食を摂っていた。正直なところを言えば株価の上下などにはそれほど彼は興味を持っていなかった。一時的なそれで財政に大きな影響を与えるわけでもなく、予算の均衡と国債の縮減に努める彼にとっては”超重爆開発”など迷惑なことでしかない。


「左様で・・・・・・」


 曖昧な返事をするにとどめるモーゲンソーであるが、彼は超重爆開発の正当化と出費の増大、ルーズベルトとその側近たちが推し進めるニューディール政策の公共投資にどう折り合いをつけるか、それが彼の頭痛の種である。暢気に株価で一喜一憂している上司の顔色なんて窺っている暇なんてないのだ。


「・・・・・・全く要らんことを陸軍はしてくれたものだ」


 ボソッと呟いて悪態を吐くモーゲンソーのそれはルーズベルトの耳には聞こえなかった。だが、彼の憂鬱に誰も救いの手を差し伸べる者はいない。ここにいるのはルーズベルトのイエスマンばかりで話にならないからだ。いや、追従者だけなら良いが、ここに巣食っているのは容共的な輩(アカども)が多い。


「押し黙ってどうした? ブレークファーストが口に合わなかったか?」


「いえ、そうではありません。予算のそれで精査しなくてはならないものが多く、思考しておりました。海軍予算の見直しなどせねば成らぬようでして」


「海軍予算?」


 怪訝な顔で視線を向けてくるルーズベルトの表情はいくらか機嫌を損ねているそれであった。


「建艦予算をいくらか圧縮しませんと国債発行をしなくてはならないのです。今は国債発行を抑えるべく予算を切り詰めておりますれば・・・・・・」


「そんなことは認めぬ。忌々しいジャップどもが超巡を建造し始めておると言うではないか、それに後れを取っては太平洋の安寧などあり得ぬ。アラスカ級の建造促進こそすれども遅延など許さん」


――何を言っているんだ。税収が増えないのは対日制限が原因なのだぞ?


 モーゲンソーは頭を抱えたくなった。ニューディーラーの馬鹿どものおかげで唯一景気が良い日本向け輸出が制限され、輸出産業は利益を得ることが出来ず税収は伸び悩んでいるというのにと彼は内心思っていた。


 しかし、それを顔に出したところで彼の上司はそれを認めるわけがない。海軍びいきが過ぎるこの男は海軍予算の削減など絶対に許容出来ず、まして先頃打ち出して議会を黙らせるに至った超重爆計画も体面上予算縮減など提案出来ようはずがないのだ。


 圧縮も延期も出来ないとなれば、陸軍の他の予算を圧縮するほかない。開発が進んで制式化するだけとなっている陸軍の新型小銃M1ガーランドの導入を遅らせ、弾薬生産も絞るしかないとモーゲンソーは斬り捨てられる部分を脳内で見つけてその外堀を埋めるべく陸軍との取引材料を思案し始める。


「では、その割を陸軍に食って貰うことにしましょう。超重爆も元はと言えば陸軍が言い出したこと、限られた予算ですから、他の装備を削って超重爆開発と整備を進めるように考証致します」


 モーゲンソーの言葉にルーズベルトは満足して頷いた。海軍予算を削られるという自分の玩具に手をつけられないと知って機嫌を良くしたようだ。


――まったく、この男は我が強すぎる・・・・・・。


「太平洋をジャップの好きにはさせぬ。大西洋は条約完全無効化の後に整備される新型戦艦で手当てすれば良いが、スターリンとの密約もあるからな、急がせねばならん」


――密約? なんのことだ?


 口が滑ったことに気付きもしないルーズベルトは朝食の残りを平らげると安楽椅子に移動し食後のコーヒーを楽しみ始めていた。重大な秘密が存在すること知らされ、しかもその内容が分からないという状態に陥ったモーゲンソーは目眩がする思いだった。


――思えば先頃のオホーツク会談では連絡船上でスターリンと歓談し、両国の友好をアピールし、投資の拡大を約束したそれが盛んにルーズベルトの太鼓持ち新聞社を中心に報道されていたな。


 モーゲンソー自身は超重爆計画のそれで各省との折衝で多忙であったこと、外交には無関係であったことから帯同しなかったのだ。


――あの時に毒饅頭を食わされたのか? あのオレンジ計画を見直すというのか? そうなると大規模な建艦計画も海軍は裏で進行させているということになるぞ・・・・・・参ったなこれは。


 そうだとすれば、この超重爆とアラスカ級以下の新型艦は対日戦を見据えてのものであると考えないといけない。


――ソ連と共同して対日戦でも始めようというのか?


 視線を向けた先で安楽椅子を揺らしてリラックスしているルーズベルトの後ろには悪魔がいるように、いや、ルーズベルトそのものが悪魔なのかも知れないと思うとモーゲンソーの背筋に冷たい汗が流れ落ちた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 総帥の「趣味で開発した列車砲」がトンデモ方向に米帝が向かっているんですが(笑) [気になる点] とは言え「超重爆」は今後の「お楽しみ」としても姿形が一切想像できません。 B-29以上とな…
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