空飛ぶ列車砲
皇紀2595年5月18日 アメリが合衆国 ワシントンDC
”空飛ぶ列車砲”演説――アメリカ議会において超重爆問題が取り上げられたことでフランクリン・ルーズベルトは大統領として釈明を求められたが、逆にその場を制圧するような演説を行って議会勢力を黙らせたのであった。
「――諸君、欧州や満州において列車砲が運用されていることはよく知っているだろう。特にジャパンが画期的な運用を行いその絶大なる効果を示したことは記憶に新しい」
唐突にルーズベルトがそう語り出したことに議会に集う代議士たちはヤジを飛ばすのすら忘れたようにポカーンとしている。
――税金の無駄使いも同然である超重爆開発を釈明すべきなのに何を言っているんだ?
皆の内心は大小の違いはあれどそう言ったモノであったのは間違いない。だが、そんな代議士たちの内心を無視するかのようにルーズベルトは続ける。
「我が合衆国にも列車砲はいくつか存在し、東海岸の各地で大西洋に睨みを効かせている。同様に各地の沿岸砲も挑戦者が合衆国に挑んでくるのを待ち構えている」
そこでルーズベルトは議場を一巡するように視線を向ける。何かを言おうとしているが、言葉に出来ずにいる代議士たちの顔がいくつも見えたことで彼は満足したかのように頷き続けた。
「だが、列車砲も沿岸砲も残念だが、挑戦者に有効であるとは言えない。なぜなら、いつも戦場では先手が有利な状況だからだ。我々が先に敵を見つけ迎え撃つなら列車砲や沿岸砲は有効に機能するだろうが、さて、よく考えて貰いたい。態々屈強なる武闘家の手の届く範囲に挑戦者が来るのだろうか?」
「――そんな間抜けはいない」
仕込んだサクラ代議士がルーズベルトの言葉に合いの手を入れる。それを大きく頷くと力強く言葉を重ねる。
「そうだ。こちらがいくら必殺のパンチを加えるために虎視眈々とその瞬間を狙っていてもだ、敵がこちらの手に乗ってこないのでは必殺のパンチは不発に終わるだろう。それが列車砲と沿岸砲の弱点である。だが、超重爆はそうではない。これらは・・・・・・そうだな・・・・・・キックボクシングとでも言ったら良いだろうか。パンチが届かないなら、キックで相手にダメージを与えるのだ。こちらにはパンチだけでなくキックという技があるのだと」
この時代にはまだキックボクシングなどというそれは存在しない。だが、その例えはアメリカ人には有効なそれだった。
「私はモンロー主義を否定などしない。戦場に合衆国市民を追いやろうとなど思ってはいない。だが、襲ってくる強盗相手にショットガンを食らわせることくらいのことは当然であると思っている。それが超重爆開発というそれの考え方である。敵地を狙うのではなく、ノコノコやってきた輩にキツいのを一発食らわせてやると言うことなのだ」
モンロー主義の否定をしない、合衆国市民を戦場に送らないというそれは全国の選挙区で選出された代議士たちにとって非常に耳障りの良い言葉だった。こちらから仕掛けるのではなく、あくまでも自衛手段、強盗相手にショットガンを食らわせるというその延長戦だと言われたらうんうんと納得し頷く者も多く出てくる。
「超重爆は空飛ぶ列車砲と同じなのだ。超重爆という要塞が大西洋を、太平洋を渡って攻めてくるならず者へ裁きの鉄槌を下す。だが、それは攻撃的なのではない。あくまで防御的なものなのだ。そして列車砲よりも打撃力に優れ、素早く殴り倒せるのだ」
ルーズベルトの言い分はそういうモノだった。これは詭弁に過ぎない。航続距離については一切語らず、防御的兵器だと言いつのっているが、実際に開発指示では8000キロにも及ぶ航続距離を出され、実現するかしないかは兎も角、仮想敵国である大日本帝国本土をフィリピンやグアム島から往復空襲可能である数字であるにも関わらずである。
「超重爆はその腹に数トンの爆弾を抱えることが出来る。これは列車砲の砲撃を遙かに上回る投弾が可能であると言うことになる。つまり、敵が上陸しようとしても、敵艦隊上空に素早く展開し、彼らの頭上に爆弾や機雷を雨霰と降らせることが可能なのだ。これ以上の防御兵器はないだろう。諸君らはこれでも超重爆を否定するのであろうか?」
共和党系の代議士たちは多少渋い顔をしていたが、表だって反論することはなかった。彼ら自身の国防方針、外交方針と合致する以上は文句の言い様がないのだ。そして列車砲よりも優れている以上、互換兵器としての開発であると言われたら受け入れるほかなかった。
「空飛ぶ列車砲、それ以上でも以下でもない。我らは安心して眠るために自宅にショットガンを装備する、それが合衆国という家における超重爆なのだ。そう理解して欲しい」
明快な言葉はすぐに記者たちによって本社へ送られ、そのまま記事となり、その日の夜には炉辺談話としてラジオ放送されるのであった。
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