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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2595年(1935年)

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石原莞爾、参謀本部に立つ

皇紀2595年(1935年)5月1日 帝都東京 三宅坂 参謀本部


 転生を自覚した後、石原莞爾はなるべく目立つことを控えつつも病弱を理由に入退院を利用して纏まった時間を作り出し、前世と現世の違いを比較検討し戦略構想を練る時間に充てていた。


 幸いにして満州事変は張作霖爆殺と同時に進行し、満州を得ると同時に外交的駆け引きと列強との利害調整という裏技が奏功したことで自身が手を打つ間もなく概ね狙い通りに進行していた。これに石原は時間的猶予を得たとばかりに自分と近しい板垣征四郎らと連絡を取り合って満州領有を着実に進めるべく手を打ったのである。


 その後も支那における列強との密約で蒋介石の国民党は北支まで勢力を伸ばすことは出来ず、支那大陸の分裂状態に置くことに成功していたことで、板垣や石原は満蒙支の分断工作に邁進する。


 この分断工作には甘粕正彦率いるA機関や帝国陸軍のフロント企業である泰平組合(後の昭和通商)、阿片王として裏社会に名を轟かす里見甫らが暗躍し、北京北洋政府の自立化、張学良の孤立化、支那大陸全体への阿片密売ルートの確立、青幇及び紅幇との阿片密売協定、国民党の腐敗の助長と支那大陸を暗黒時代へ突き落とす策謀が行われていたのであった。


 そして石原の雌伏の時は終わりを告げることとなった。


 陸軍人事において陸軍大臣荒木貞夫が自身の支持派閥である皇道派を粛清する方針を打ち出したことである。これによって用兵を扱う参謀本部から皇道派が一掃されることとなり、時流を見た石原の論文提出と相まって参謀本部作戦課長へと就任することとなったのである。


「さて、オレもこれで日の当たる場所に来られたな。しかし、上等兵殿には随分と差をつけられてしまったものだな」


 石原はや漸く巡ってきた中央勤務に満足感を得つつも、名声では関東憲兵隊司令官である東條英機に圧倒的な差をつけられてしまったことを少しだけ妬むように呟くが、その背後の存在に気付いていたためかあっさりと自身でその妬みを消化することに成功していた。


「マァ、仕方ないわな。現世で上等兵殿の活躍の裏には助言者と資金提供者が存在しておるのだからな。統制派ではなく、財界や官僚と接近しておるのだから前世とは違って世情を見る目くらいは養われるだろう。御上の信頼も前世を上回るものがあるのだから奴も張り切っておるのだろう」


 内心の妬みをそう言い聞かせて納得させると石原は自身に課せられた義務に向き合う。彼に与えられた任務は満蒙戦線における立て直しである。


 工業化が著しく生産力の増す内地から次々と兵器が送られ、史実以上の補給能力を発揮しつつあったが、如何せん問題は航空戦力の差が縮まらないとことだ。そしてシベリア鉄道を使ってベルトコンベア式に続々と送られるソ連赤軍の物資は積み上がっていく一方であることが航空偵察によって判明している。


 特に新型戦車が配備されつつあることは石原にとっても誤算であった。


「航空機は今はまだなんとかなっているが、問題は戦車だ・・・・・・イタリアに輸出する余分などないぞこれは・・・・・・」


 九四式軽戦車の制式化が遅れたことによってイタリアへの細々とした輸出分の生産ラインしか存在していないのが石原を悩ませる問題の一つである。


「一体どこの馬鹿だ。戦車の量産を止めたのは・・・・・・」


 悪態を吐くが仕方がない。当時の判断を下した担当者も限られた予算で荒木が唱える火力優勢ドクトリンを実現しようとすれば機動砲の生産が優先になるのは仕方がない結果だったと言える。


 実際、その判断は間違っておらず、大興安嶺要塞や各地の戦線において火力でソ連赤軍を黙らせ侵攻を食い止めるという成果を上げている。だが、突進力が欠如しており、結果として防ぐのが精一杯という惨状だ。


「今から増産させたところで昭和11年に整うのが関の山か・・・・・・では、新型戦車にその生産ラインを充当した方が現実的と言えるだろう」


 石原の脳裏には前世で一式中戦車[チヘ]と九七式中戦車改[新砲塔チハ]が同時期に生産されたことで結果としてチヘ車の生産が遅れるという失態が浮かんでいた。


 現時点で試製九五式中戦車[チロ]の開発が進んでいることもあって今手を出すことは余り得策とは言えない。特に技術本部の張り切る様を見るにその開発の進行と新型戦車の要求需要から秋から来春には採用の運びとなるだろうことを考えるとそれなりに優秀な九四式軽戦車であっても無闇に生産ラインを拡張して試製九五式中戦車の登場を遅らせるのは無能の証明であるとさえ思えた。


「大佐殿・・・・・・石原大佐殿!」


「なんだ、儂は今作戦を考えておって忙しいのだ!」


 思考の沼にハマっていた石原は副官から呼びかけられたことに苛つきを見せ、躊躇なくぶつけたのであった。


「日産コンツェルンの鮎川義介総帥からお会いしたいとの・・・・・・」


「日産の鮎川? 技本の原中佐への紹介状でも渡しておけ、会うべき相手を間違っているだろうと伝えたら良い。なんだったら儂の名で兵器本部のお偉方への紹介状でも書いて渡してやれ。軍需の甘い汁を吸いたいならそうしろとな」


 副官はすぐに引き下がる。暫くして血の気が穏やかになった頃、ふと石原は思う。


「日産の鮎川がなんで俺のところへ?」


 だが、断ってしまった手前自分から何用かと尋ねるのはバツが悪いためすぐに記憶に彼方に追いやることにした。


「今やるべきことはソ連という赤鬼をどう退治するかだ・・・・・・合衆国という青鬼まで一緒になってこちらに向かってこられたら敵わぬからな」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一式中戦車やチハ改相当の車両を開発するとして、一式機動速射砲は採用するのでしょうか? 対戦車戦闘に47ミリ弾は有効なのでしょうか?私としては九〇式機動野砲で充分とは思いますが。 [一言…
[一言] 予算のバランス難しいですね。 史実より円が強いでしょうから大陸でビッグスリー製の自動車が量産されると軍民共に困りますし。
[一言] 日産…まさか戦車の開発・生産に関わるつもりか?(確か戦前満洲に重工系の会社持ってたはず
2021/11/19 07:18 退会済み
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