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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2595年(1935年)

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脱ヴェルサイユ体制

皇紀2595年(1935年)5月1日 欧州情勢


「独逸政府、ヴェルサイユ条約破棄を宣言」


「英独共同声明にて独逸の再軍備を容認と発表」


「仏国政府、不快感を表明、同日エルザスにおいて仏国陸軍、大演習を発表」


「ポーランド回廊の領有問題再燃の予感」


 史実では3月16日にヴェルサイユ条約を一方的に破棄したヒトラー政権であったが、この世界では亡命皇帝の仲介によってオランダ・ハーグにおいて英独共同声明を発表しその中でヴェルサイユ条約の破棄と英独協定が結ばれることとなった。


 これには史実の寿命を超えても未だ健在のドイツ大統領パウル・フォン・ヒンデンブルクの帝政派を動かした工作の成果であった。そして、その中にはヒトラー政権の中枢を担いつつも帝政派の実質的ナンバー2として地位を盤石にしつつあった国会議長ヘルマン・ゲーリングの指導力によるものだった。


 また、外務大臣であるコンスタンティン・フォン・ノイラート男爵も大英帝国側との交渉を粘り強く行い、ヴェルサイユ条約破棄に至るまでの再軍備へ向け一歩一歩着実に成果を積み上げていき、英独間における各種協定を締結することで英独の関係改善と対立回避へと貢献していたこともヴェルサイユ体制から平和裏に脱却することへ大きく影響している。


 だが、それでも不満は残る。


 戦場となったフランスやベルギーはドイツへの感情は非常に悪い。国土を踏み荒らされ、人口を減らされた挙げ句、陸軍大国ドイツの復活など脅威でしかなく、賠償金の取り立てさえままならない状態でヴェルサイユ体制をご破算にされては怒りをどこにぶつけるかは明白であったと言えるだろう。


 ドイツ国境で独仏間の係争地域であるエルザスにおいて陸軍大演習を行うと予告したのだ。明らかにドイツへの脅迫であった。


 だが、足並みを乱されては困る大英帝国はパリに駐在する駐仏大使を通じてフランス政府に囁くことでこれを黙らせる策に出た。


「なんでも人民戦線なる左翼中心の政権が誕生しそうであると聞き及ぶが、まさか、反革命の旗印の下にロシアへ共同出兵した貴国がその様なことになるはずはありますまいな?」


「今やドイツは欧州の壁となる存在、それを担わせて反革命の防波堤となるドイツを背後から刺したりなど、その様な愚かな振る舞いを貴国がするとは到底思ってはおらぬが、聞き及ぶ軍事演習は通常の規模の定期的なそれであると信じておるのだが、どうだろうか?」


「なんでも仏ソ相互援助条約の交渉を行っているそうだが、それは欧州に騒乱の火種になりはしないかね、それともドイツを背後から撃ちソヴィエトロシアとともに欧州を真っ赤に染めるつもりかね?」


 要約するとこういう内容を英国紳士風にブラックジョークを織り交ぜつつ、けして明確にそれと言わずに警告を発したのである。


 大英帝国側からの警告は文字通り、フランス政府に衝撃を与えることとなった。フランス首相のピエール・ラヴァルにとっては前任者が推し進めた仏ソ合作を不承不承引き継いだだけで常に懐疑的に考え、交渉を何度も打ち切ろうとしていたが国内の左翼勢力と国会における左派勢力の突き上げによって継続させられていただけであった。


 締結すれば明らかに大英帝国からの圧力が高まることは目に見えていた。だが、締結をしなければ国内の左派勢力によって暗殺されることは目に見えていただけにラヴァルは絶望感に苛まれたのである。


「進退窮まった。最早万策尽きた。私は辞職する」


 そうなると今度は困るのが中道・右派である。不安定ながらも周辺国との協調を支えてきたラヴァルの辞職など認めればフランスの国威が低下するだけでなく、国内政治も破綻を見ることは目に見えていたのだ。


 引き留め工作を周囲に命じ、辞表受理を渋る大統領アルベール・ルブランは、今度はラヴァルが自殺しないように慰留するという役目を引き受けることになるのだが、もうこうなるとフランス政府は挙げた拳を振り下ろすどころか迷走することになってしまう。


「そうだ、総選挙だ」


 ルブランは何度目かの慰留の途中でラヴァルに自身の思いつきを語る。


「ピエール、君は総選挙を戦い、そして人民戦線が誕生したらどれだけ危険かを訴えるのだ。そして我がフランスが英独と協調していくことを訴えるのだよ」


 ルブランの提案にラヴァルは首を振って応じる。


「総選挙ともなれば対独報復論や対英対抗で左翼の声がより大きくなることは間違いないでしょうな・・・・・・元々来年予定されている選挙でも我らは不利なのです」


「だが、周辺国を納得させるにも民意を示す形を取らねばなるまい。このままでは内政干渉を許すことになる。まして軍部が振り上げた拳のせいでベルギーも対独強硬論に傾いておる・・・・・・いずれにしてもガス抜きは必要だ」


「負けると分かっている戦をするのは愚かに思えますが・・・・・・・致し方ありませんな」


 フランス政府は意図せず総選挙へと踏み切ることになるが、少しでも勝率を高めようと在郷軍人などを利用して左派勢力に対独強硬論を唱えさせると同時に資金力を落とさせるために各地でストライキやデモを繰り返させた。また、統合成ったばかりのフランス国鉄を生け贄にし、激しいデモやストライキの舞台としてフランス国民に左翼や活動家がどれだけ迷惑を与えてくる存在かを示すことで選挙戦を優位に戦えるように根回しを行っていったのである。


「分かりました、政府の思惑は理解しました。それについては確かに我々も同様に思っていますから協力致しましょう。ですが、事後の予算については一考を願いたいと思います。被害の補償、高速鉄道の実現への予算配分と目を瞑っていただきますぞ」


 フランス国鉄総裁は裏工作による条件を突きつけこれを呑ませることとなった。


「それと、運輸省の新設で道路行政も国鉄の横槍が出来るように願いたいですな」


 これには流石のルブランとラヴァルの二人も苦笑いをするしかなかった。国鉄総裁が強欲なそれであるだけに国鉄ストは激しく燃え上がるだろう予感に二人は揃って内心で勝算が見えてきたと感じていた。

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