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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2595年(1935年)

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ウーデットの旅路<4>

皇紀2595年(1935年)2月3日 アメリカ合衆国 ロサンゼルス郊外


 有坂総一郎からの密命を帯びた格好になったエルンスト・ウーデットはダグラス社との交渉に先立ってドイツ系コミュニティーやスパイ情報などをドイツ領事館において収集することに専念した。


 と言うのも、総一郎からの情報は断片的すぎて交渉材料にするには些か心許なかったからだ。この話にはルフトハンザ航空という看板は出すものの実際にはドイツ当局は関知していない。


 そこで領事館から本国へボーイング社との交渉が成功したことを報告するついでにルフトハンザ航空の日本法人設立という話を持ちかけることにした。その際には合弁企業という体裁をつくり、そこに有坂コンツェルンからの出資金15万ドルを充て、本国負担を最小限するというシナリオをでっち上げたのだ。


 そしてその機材としてDC-3を購入し、東京(羽田)~大連~青島のドイツ権益を結ぶ路線を開設することを進言したのである。


 このウーデットの目論見は結果から言えば本国の承認が得られた。


 実際問題として、ドイツ系企業の満州進出と山東半島への再進出は顕著であり、関係を深めつつある日本本土と満州・山東の航路開設は以前から望まれていたからだ。従来は大阪商船が神戸~門司~大連、近海郵船が横浜~神戸~門司~天津、日本郵船が長崎~上海、横浜~門司~上海の大陸航路を牛耳っていたことからこれらを利用することが便数の面でも多かったのだ。


 だが、青島への直通航路がないことから上海を経由するか大連を経由するかしないといけないため、ドイツ人やドイツ企業にとっては不便であった。だが、船舶の保有数の面でこの地域に配船するのは現実的でないことからドイツのフラッグキャリアであるハンブルク・アメリカ・ライン、北ドイツ・ロイドなどは難色を示していた。


 そうなると地域覇権国家である大日本帝国のフラッグキャリアである日本郵船や大阪商船が配船することが現実的だが、山東半島には日本資本が殆どなく、直通航路を開設するのは現実的ではなく、大連航路の延長もしくは天津航路の経由地とすることが代替提案されたが、そもそも大阪商船や近海郵船にとっても提案こそすれども乗り気ではなかったこともあって暗礁に乗り上げていたのだ。


 次に浮上したのは大英帝国であったが、彼らもまた山東半島にはそれほど興味を持っておらず、威海衛の租借地も返還されずに維持されてはいたが主に軍港としての機能が重視されていたことから大日本帝国同様に冷淡であった。


 こういった事情からルフトハンザ航空の日本法人設立はドイツ本国とドイツ財界にとってはメリットがあった為、史実で反目したエアハルト・ミルヒの横槍も入ることなく設立が許可されたのだ。尤も、他人の褌で相撲を取るというそれが一番の理由であるのは疑いの余地がないが……。


 さて、ドイツ側のお膳立てを行うのに半月程度掛かったのだが、ウーデットの思惑通りにことは進んだ。日本法人の臨時総支配人という肩書きをウーデットは得たことで動きやすくなったと言えるだろう。


 この間、ドイツ本国工作を行う傍ら、情報収集を彼は怠ることはなかった。


 総一郎の言っていた通りにユナイテッド航空が各エアラインを誘って正式にダグラス社においてDC-EXの開発がスタートしたのである。この時、構想されていたものは史実のDC-4Eに近いものだった。DC-3の大型化、発動機4発化、最高速度400km/h、航続距離3500kmと構想そのものは多少の差異があるとしてもDC-4Eそのものであった。


 元々DC-3の開発と並行して基礎研究を進めていたこともあって、DC-3由来の技術が随所に見られるモノであった。それ故にダグラス社の開発計画発表において具体的な数字がかなり公表されていた。また、ユーザーの信頼を得るためにDC-2、DC-3の熟成された技術を用いることを公表していたのだ。


 だが、その公表されたモノにウーデットはいくつかの疑問があった。


「いやいや、こんなブレーキはあり得ないだろう……それにこんな油圧制御が実現出来るとは思えない……」


 ウーデットが微妙な表情をしたのは仕方がなかった。油圧のそれが従来の3倍というものだったことで整備に問題が出るだろうと感じたのである。これは直感の類いである。尤もブレーキに関しては確信があった。


「あんなブレーキじゃゴムチューブが加熱してブレーキ力を低下させるだろうし、そもそもゴムチューブの耐久度が追いつかないだろうな……なんだってこんなもん考えついたんだ?」


 実際、この後、DC-3はこのブレーキの欠陥が理由でブレーキ力が低下し事故を起こす、過滑走する、ブレーキ整備が煩雑など問題が出るのであった。尤も、ディスクブレーキ式に変わると問題は起きなくなり名機の称号に相応しいモノとなっていくのはまた別の話である。


 他にもいくつかの疑問が浮かぶが、そこはウーデットは割り切ることにした。


「この機体を欲しがっているのはどうせ有坂の旦那なんだし、失敗作でも構わないと言っていたからな……出資者としての意見としてちょこっと介入する程度でそれ以上は口を挟むのはやめておこう」


 公表された情報とユナイテッド航空経由でボーイング社から回ってきた情報と総合してウーデットはそう結論づけた。


「名門ダグラスが造る機体だから、そりゃあ、飛ぶだろうな……だが、飛ぶのと使えるは違うからな……それにどの時点で気付くかだが……失敗したときは買い叩くつもりなのだろうか……」


 一筋縄にいきそうにないDC-EXの行方を案じつつも与えられた使命を果たすべくウーデットは動き出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 油圧関係トラブル母体からあったんですね……。 戦後に判明する無線雑音の減らし方、艤装の不味さもこの際解決出来れば良いのですが………。
[一言] DC-EXに一抹の不安を抱えたので調べてみたら…やっぱり深山のベース機だったよ!!! 史実よりもエンジン部分の技術発展が進んでるとはいえ、不安しかねえじゃねえか!
2021/09/08 11:26 退会済み
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