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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2595年(1935年)

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動き出した歯車は止まらない

皇紀2595年(1935年) 1月1日 アメリカ情勢


 正月早々、この世界における秩序を乱したことへの後悔に頭を抱える夫婦はおいておくとしてもこの世界の新年は割と平穏な形で迎えていた。


 極東地域におけるそれは冬になると軍事行動の制限が出てきたことで自然と終息していき、戦線は固定化した。北満州は日本勢力圏に、内蒙古はソ連・人民モンゴルといった具合で痛み分けの様相だ。尤も、日本側にとっては大興安嶺要塞の陥落の危機という問題以外は大きな失点もなく、この時点においての勝者と言っても良かったが、一番割を食ったのは結局は支那各勢力であったと言えるだろう。


 内蒙古から叩き出されてしまった徳王ら蒙古王侯はそのまま天津の列強租界に亡命状態となった。また、張学良の軍閥は空軍戦力を喪失してしまったことで戦局における主導権を失い万里の長城以南に引き籠もるしかなく、万里の長城以北で確保しているのは包頭やフフホトくらいなものである。しかも、そこは中華ソヴィエトを名乗る毛沢東が実質的に支配する勢力圏であり、逃げ込んだ敗残兵がいるというのが実態だ。


 また、意外なところで極東情勢が影響している国がある。その国家はアメリカ合衆国。


 密輸によって張軍閥へP-26を持ち込んでいたアメリカだが、I-16にあっと言う間に駆逐されてしまったことが自国製兵器への疑問と性能をまともに運用すら出来ない支那陣に問題があるのか、それが陸軍航空当局において真剣に議論されていたのだ。


 だが、不幸なことにI-16の速度性能を見誤ったこと、列強各国の戦闘機開発情報によって自国製戦闘機の性能に問題があるとは言えないと結論づけられたのだ。そこには白人特有の驕りがあったのかも知れない。だが、彼らも驕りはあろうと無能ではない。34年のうちに次期戦闘機の開発競作を各社へ指示している。


 史実通りであるならば……この後に米陸軍制式戦闘機になるのはP-35であるはずだが、そうは問屋が卸さない。受注するはずの企業であるセバスキー社が、後のリパブリック社がアメリカ航空産業には存在していないである。


 では、このセバスキー社がどこにあるかと言えば、正統ロシア帝国の港町であるナホトカにその本拠を移していたのだ。


 亡命ロシア人たちが大量脱出した後、セバスキー社を主催するアレクサンダー・セバスキーは暫くの間は残留していた亡命ロシア人や同じく亡命した旧ロシア帝国各民族の一種のコミュニティーとしてニューヨーク州ロングアイランドで零細航空機メーカーを営んでいた。


 彼は社長であるとともに設計者とパイロットを兼任していたために経営にはそれほど詳しくなく、かつての同胞を受け入れるなどしたことで会社の経営は火の車であった。ロシア出身のマイケル・グレガーとグルジア出身のアレクサンダー・カートヴェリを主任設計者に雇い主任設計者に抜擢して兼任を解くが、やはり多忙であるのは変わらず経営的には苦しいままだった。


 その経営方針に疑問を抱いていた取締役のウォーレス・ケレットは史実よりも早くセバスキーに反旗を翻した。これによって株主なども賛同した結果、セバスキーとその技術者たちはセバスキー社を追い出されたのである。


 だが、セバスキーはいつかこうなると予想していたのだろうか、会社名義の特許や使用権などを作らず、その全てを技術者たちの権利としていたのだ。これによってセバスキー社には生産設備程度しか残らず、その知的財産の多くはセバスキー本人と彼に従う旧ロシア帝国系人材とともに新天地である正統ロシア帝国へと移ってしまったのである。


 債権者や投資家、労働組合など入念な根回しによって会社そのものを乗っ取ることに成功したケレットであったが、技術者たちがそっくりそのまま出て行くなど思いもしなかったのだ。設備はあっても知的財産がなければ生産そのものが出来ないため逆に身動きが取れなくなったことにケレットへセバスキーは満面の笑みでこう言ったという。


「ケレット、君は経営や裏取引の才能はあったみたいだが、技術者たちの人望は得られなかったみたいだね……けれど、君には感謝するよ。私を重荷から救ってくれたんだ。新たなビジネスパートナーと今度は失敗せずにやり直すことが出来そうだ」


 笑顔で握手を求められた方はそれどころではなかった。今までの製品の多くは技術者たち、特にセバスキーが去ることで生産不可能になるのだから。


「待ってくれ、正統な報酬を約束する。だから、技術者として残って欲しい」


 ケレットは懇願するが、最早後の祭りである。


「メイクマネー、メイクマネーとギスギスしたそれには飽いていたんだ……シコルスキーの連中がノビノビとやっているそうだし、俺たちもそうするさ……じゃあな!」


 流石は亡命者たちである。居心地が悪ければ、その場から立ち去ることに何の躊躇も要らない。さっさと荷物を纏めると数日後にはニューヨーク港からの定期船で一路ロンドンを目指したのだ。彼らはロンドンからスエズ運河を経由して横浜へ向かうことになっている。彼らが目指すのは正統ロシア帝国のナホトカだ。


 ケレットに残されたセバスキー社はそれからすぐに解散し、その後継となるはずだったリパブリック社はこの世界から永遠に消え去ったのである。34年の年末のことであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] リパブリック消滅。しかし、米国は層が厚いからリパブリックが居なくても代わりをカーチスやヴォート、ノースロップなんかが埋めそう。 ロシア系の航空会社に加わった筈の米国のエンジニア達も別の会社…
[一言] はいP-47終了のお知らせ(ただしその代わりP-38とかP-51が長距離戦闘機としてヒャッハーしそうだけども それはともかくとして、セバスキーが正統ロシアに移った事で、正統ロシアないしその後…
2021/08/29 13:05 退会済み
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