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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2595年(1935年)

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急降下爆撃機という存在

皇紀2595年(1935年) 1月1日 日米独の航空事情


 急降下爆撃というそれの元祖は意外に思われるかも知れないがアメリカ合衆国が発祥であった。欧州大戦時にアメリカ陸軍航空隊によって運用試験が繰り返され、史上初の戦場における運用は19年のハイチ及びドミニカへの軍事介入によってアメリカ海兵隊が実施したそれが最初である。


 急降下と言えば空飛ぶ砲兵と名高いJu87や九九式艦爆などを思い浮かべることが多いだろうが、実際には両者ともに源流を辿るとアメリカ合衆国という家元の作法を教わったものだと言えるだろう。


 帝国海軍は31年頃から六試特殊爆撃機という試作開発を始めたことが最初になるのだが、当然のこの計画は日の目を見ることなく失敗、続く七試特殊爆撃機の失敗を経て、34年に八試特殊爆撃機が完成したことでようやく満足出来る域に達したと言える。これが世に言う九四式艦爆である。


 そしてこの九四式艦爆は愛知航空機の開発であり、その後、艦爆と言えば愛知という代名詞を冠する様になるほど原点と言えるものであったが、その実態を見てみると海軍省の許可得てハインケルに艦上急降下爆撃機の日本向け試作を発注しものであり、ドイツ発の急降下爆撃機であるHe50を輸出用に改設計したHe66という機体だ。


 しかも、そのHe50の設計の原点を更に辿ると帝国海軍からの発注であり、それに目を付けたドイツ国防軍が増加試作させて採用したという経緯がある。当然、そうなると開発時期が遡り旧式な構造を持つ機体であった。


 更にややこしいことに、帝国海軍は支那事変において同型機と交戦していることになるのだ。なぜなら、ドイツと支那が提携していた時期にこのHe66が輸出されていたからである。


 そして、33年にアメリカは急降下爆撃のデモンストレーションを派手にやり、これを見学して大いに影響されドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の航空機生産に悪影響を与えてしまった人物がいる。その名をエルンスト・ウーデットという。


 彼が急降下野郎に目覚めてしまったことでドイツ空軍は急降下爆撃機開発に血道を上げてしまったのだ。そう、Ju87だけに飽き足らず本来は重爆に相当するはずのJu88やDo217、He177にまで急降下性能を要求してしまうという徹底ぶりである。無論、そんなものが上手くいくはずがなく、失敗に次ぐ失敗で開発遅延と生産現場の混乱が頻発するという事態を招いただけであった。


 だが、双発ないし四発の大型・中型爆撃機に急降下性能を求めたのはドイツだけでなかった。帝国海軍もまた新鋭双発爆撃機に急降下爆撃能力を要求し、実現してしまったのである。そう、陸上爆撃機「銀河」の開発である。


 彼らは急降下爆撃という魔性の何かに取り憑かれてしまった結果、大事なものを引き渡してしまったというわけだ。


 だが、この世界は経緯が少し変化している。


 まずウーデットはドイツ本国にはおらず、所沢教導飛行団においてウーデットサーカスを率いて酒池肉林のやりたい放題をしているのだ。なまじ才能があるだけに質の悪いことこの上ない。所沢教導飛行団は駄目人間製造所という二つ名を持ちながらも、確実に精強無比な陸軍航空兵を量産しているのであった。そのため、ドイツ本国から召還命令が出る度に陸軍省は理由を付けて帰還延期を願い出て無期限リース状態にしていたのだ。


 そして北満侵攻事件以来の日ソの衝突でウーデッツ・キンダーが空中戦において不利な条件であっても善戦どころか逆襲を仕掛けるというまでに育っていたことからウーデットたちの出鱈目さに目を瞑ることが陸軍省と参謀本部の暗黙の了解となったのである。


 こういった事情からウーデットがドイツ本国における航空行政に一切関わることはなかった。これがどう影響するかはまだこの時点では誰にも分からない。なにせドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)には一癖も二癖もある人材が揃いに揃っているからだ。それらを集め制御していたヘルマン・ゲーリングは一体どんな芸当を使ったのか、全くもって謎だ。


 だが、これで一つ言えることはドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)に急降下爆撃機という存在は史実よりも重視されることはないということだろう。尤も、ウーデットが抜けたことによるそれよりも大西洋爆撃機ともウラル爆撃機とも陰で噂される長距離重爆の開発にそのリソースを回していることから生産能力的な余裕がないということもあるのだが。


 さて、話は日米の急降下爆撃機に戻る。


 欧州大戦におけるユトランド沖海戦などで戦艦の水平防御が弱いことが知られる様になるとアメリカ陸海軍はこれに注目したのだ。


「水平爆撃では命中率が著しく低下する傾向にある。だが、急降下爆撃ならば爆撃精度が格段に勝る。1000ポンド程度の爆弾を急降下して叩き込めば相当な効果を望めるだろう」


「戦艦は兎も角、巡洋艦や駆逐艦などならば艦橋構造物にダメージを与えるだけでも効果があると思われる。戦艦にとどめを刺すのは戦艦でやれば良いが、雑魚を始末するのに丁度良いではないか」


 こういった議論が進展していくのは自然な流れであった。実際にそう思えるほど命中率に過信があったのは間違いないが、他国を一歩も二歩もリードしていることによって新戦術の優位性を確保したいという目論見もあったのだ。


 結果、34年に至ると開発中であった艦戦XF12Cは、艦爆SBCに変更され、正式採用されたのである。そして同時に更に高性能化と単葉化を推し進めるべく各社へ試作発注がなされノースロップ社はXBTをヴォート社はXSB2Uの開発を請け負い新世代機の開発競争が行われていたのだ。


 一方、日本においてはアメリカで熱を帯びていくそれに対して割と冷淡な部分もあった。


 海軍航空当局は空中水雷艇とも言える双発艦攻や双発陸攻こそを本命と考えて開発を進めていた。そして一種のハイローミックス的な考えによって急降下爆撃機の開発を進めていた部分があったことで双発艦攻や双発陸攻に比べると真剣味が足りなかった。


 また、史実と同じく、源田実大尉の要望が山本五十六少将へ伝わるもすぐに却下されることになる。


「いや、艦戦を減らすなど、もってのほかだよ源田君。言いたいことは分かるが、艦隊上空を守るのは艦固有の防空能力ではなく、艦戦部隊なんだ。減らした結果、敵機の侵入と投弾を許したらその時点で空母の甲板は穴だらけになる……装甲空母とは言っても、不沈艦ではないのだからね」


 至極まっとうな返答が源田に返信され、受け入れてもらえると思っていた源田はすっかり意気消沈してしまったのだ。それでも彼は主張を続けた。


「単座戦闘機に爆弾を搭載して軽快さを持って敵への先制攻撃を仕掛けることこそ、最大の防御となる……単座戦闘爆撃機はこれからの主流になるはず、一刻も早く開発を推進すべし」


 源田の言いたいことは史実ではAD-1として実現している。尤も、それは急降下爆撃の限界が見えたこと、艦攻の機動性の要求が高まったことで結果としてマルチロール機の誕生に繋がったというそれだが。それ故に先見の明とは言い難い。


 そういった事情から帝国海軍において急降下爆撃機というそれはあくまでも仮想敵国が開発しているからこちらも開発しておこうという程度のものでしかなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 艦爆ではなく艦戦と艦攻を重視する、という事は…艦戦は最初から戦闘爆撃機として運用できるものとして開発したり、史実よりも早めにエロ爆弾ことイ号一型誘導弾シリーズ開発に乗り出すのだろうか?艦戦と…
2021/08/23 21:37 退会済み
管理
[良い点] 命中精度だけがとりえの降爆だけど、その命中精度に決定的な差がある時代だからね。 まあ日本は爆撃照準用コンピューター作るかもしれないけど、それまでをどう繋ぐかだよね。
[一言] 爆撃機に関してもそうですが、人的リソースが限られる日本はパイロットの生存性を重視できると良いですね。 爆弾と言えば反跳爆弾とか面白いですよね。
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