ルフトヴァッフェの事情
皇紀2594年 12月1日 ドイツ国
急ピッチで帝国陸軍は正面装備を戦時体制へとシフトして行く。
それは東條-有坂枢軸の一派が介入したことは間違いないとしても、それ以上に史実と異なった歩みを確実に速めている。一足飛びとまでは行かないまでも、打ち立てられるフラグをしっかり回収し、新たなフラグのトリガーが引かれていると言ったら良いだろうか。
それはなにも大日本帝国に限った話ではなく、地球の裏側である欧州においても同様であった。
33~34年という時期は欧州において新型戦闘機が登場もしくは制式化する時期と重なっていたのだ。ヘルマン・ゲーリング国会議長が主導するドイツ航空省が発注した新型戦闘機の競作において、同業のフォッケウルフ社、ハインケル社を差し置いてバイエルン航空機製造はBf109の正式採用を勝ち取り戦闘機開発の主導権を握ることに成功していた。
ウィリー・メッサーシュミットの設計チームにより設計されたBf109は機体重量に比し小さく薄い主翼を持ち特徴のある設計となっている。そして、単葉、全金属・応力外皮式、密閉式の風防、引込脚など、新世代単座戦闘機で主流となる形態を世界に先駆けて備えていた。
だが、問題はこのBf109V型が競作となったHe112V型よりも量産性に勝っていたが代わりに40km/hも低速であり、極東方面からの戦訓が現地駐在武官から伝わるとこれが問題視されたのである。
I-16の速度性能は少なく見積もっても510km/h台であることは明白であり、この数字はHe112V型とほぼ同等であったのだ。また、ほぼ全損した鹵獲機体から発動機が回収され、その馬力は修理した上で地上稼働させた結果1100馬力程度と推定されていることから700馬力台のユモ210発動機では将来性が疑われたのである。
そうなるとBf109の正式採用と量産に待ったが掛けられたのである。
「イワンどもの戦闘機に速度で負けておる機体ではこれからの戦争に適しているとは思えぬ。メッサーシュミット君を呼び給え、彼に改修を命じるのだ。だが、このままでは防空に穴が空く。そんなことでは首相閣下に申し開きが立たぬ。ハインケル社にHe112を早急に量産せよと命じるのだ。こちらは改修などする必要はない」
ゲーリングの判断は間違っていなかった。国会議長としての権限も活用し、航空機生産の予算案を議会工作によってほぼノーチェックで通したのだ。また、この時、大西洋横断飛行旅客機という仮称であるが長距離重爆撃機の開発予算も組み込んでいたのだ。半国営企業であり、腹心の航空次官エアハルト・ミルヒが社長となっているルフトハンザ航空が発注する大西洋航路旅客機を国家事業として支援するというお題目である。この計画には空軍軍政部長アルベルト・ケッセルリンク少将が財政的理由から反対をしたのだが、これをゲーリングは退けている。
「ケッセルリンク、君の言うことは尤もであるのだが、欲しいときに欲しい兵器があるとは限らない。それは前大戦で戦った君ならよく分かっていると思う。次の戦争はイタリアのドゥーエ将軍の言った通りの戦略爆撃が当事者間で行われるだろう。そうなったとき、陸軍の直協支援用の空軍戦力では出遅れることになる。そして、その頃に指揮を執るのは君の様な優秀な人材だ」
この時、ケッセルリンクはゲーリングの視線の先にあるものを正しく理解していたとは言えなかった。だが、この時の彼の発言が大きくこの後の戦闘機開発へ影響を与えることとなったのだ。
「閣下、He112の暫定採用は適切かと思います。これは閣下の仰る長距離重爆がソヴィエトや合衆国、そして大英帝国から来襲した場合、これらを阻止するには多大な高速戦闘機が必要となりましょう。Bf109の改良と並行して、He112とは別にさらなる高速戦闘機をハインケル社に命じましょう。また、日本海軍へHe112を売り込むべきと愚考します……彼らは陸軍機よりも一歩遅れていることを気にしている様で非公式ですが、ハインケル社やアラド社に接触している様ですから」
「君の希望を容れるとしよう。あと、君には仕事を一つ増やそうと思う。長距離重爆の運用についてだ。場合によってはルフトハンザの社員を使って航路設定の調査名目で情報収集を行っても構わん。ミルヒにも命じておく故、連携を密に任務に当たり給え」
「はっ、ご期待に添える様、尽くしましょう」
このやりとりの後、ハインケル社は大張り切りで工場の増設を始めたのであった。また、ユンカース社から発動機のライセンスを取得し、自社での一貫製造を始めたのであった。
これはあくまでハインケル社の独断でのものであったが、ユンカース社にとっても都合が良かった。ユンカース社の生産能力はBFW社のBf109、Bf110向け供給で当面の生産能力は手一杯だったのだ。特にBf110は爆撃機直掩という任務の都合上、長距離戦闘機としての需要が伸びてきたことで戦略重戦闘機としてゲーリングの優先的開発・生産命令が出ている機体だったのだ。だが、この機体は双発であるが故に、発動機の需要を逼迫させる原因となり、これがユンカース社を苦しめていたのである。
こういった事情からハインケル社はナチ党の息の掛かったユンカース社を当てにするよりも自社製造してしまえば供給問題も不当な横槍も回避出来ると考えたのである。結果としては大当たりであったが、ドイツ国内の政治的勢力図が軍需生産にも影を落としている例とも言えるだろう。
史実よりもBf109の配備は遅れることとなったが、代わりにHe112が登場したことは高速戦闘機という脅威への一つの回答を示した例であるとも言えた。
Bf109V 性能諸元
全長:8.70m
全幅:9.90m
全高:2.50m
主翼面積:16.35㎡
全備重量:1960kg
動力:液冷倒立V型12気筒 ユンカース/ユモ210B
出力:850馬力
最大速度:460km/h
航続距離:450km
武装:7.92mm機銃×2
He112V 性能諸元
全長:9.30m
全幅:9.10m
全高:3.85m
主翼面積:17.0㎡
全備重量:2250kg
動力:液冷倒立V型12気筒 ユンカース/ユモ210E
出力:700馬力
最大速度:510km/h
航続距離:1100km
武装:7.92mm機銃×2
20mm機関砲×2
Ar80V 性能諸元
全長:10.30m
全幅:10.80m
全高:2.65m
主翼面積:21.0㎡
全備重量:2120kg
動力: 液冷倒立V型12気筒 ロールス・ロイス/ケストレル
出力:700馬力
最大速度:410km/h
航続距離:800km
武装:7.92mm機銃×2
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