戦艦と巡洋艦
皇紀2583年9月3日 土佐湾
大連沖から連合艦隊は羽柴秀吉の中国大返しが如く準備が出来た艦から順に本国へ急行していた。
そして、先に出港した長門と駆逐艦4隻はこの時、土佐湾を航行していたのである。
「英国巡洋艦らしき艦影を確認」
この時、長門以下の救援艦隊は26ノットで航行中であった。
「長官、このままでは英国に長門型の機密である速力が漏洩します……速度を落とされるべきかと……」
長門艦長の高橋節雄大佐は連合艦隊司令長官竹下勇大将へ意見具申した。
長門型は23ノットとして列強には公称しており、長門型だけでなく帝国海軍の戦艦全てが列強の戦艦よりも優速であることを隠していたのだ。そのため、軍機に触れることから公海上では最高速度で航行することを禁じられていたのだ。
だが、事態が事態であるため、出来るだけ早く東京湾へ到着しようと大連沖からずっと26ノットで航行していた。今までは英国艦を含め、列強海軍の艦艇に見つかることなく進んできたが、既に英国だけでなく米国も帝都救援に艦艇を動かしている。
「米国海軍もフィリピンや天津から出動したと聞きますし、英国も同様に香港から出張ってきたのでしょう……これからの航行は23ノットに落として進むべきと小官は考えます……」
高橋は軍機保全を優先するように求めた。
「艦長の言うことは尤もだ。だが、我らがこうしてここまで来たのは何故か? そこを考えてくれ……確かに軍機は守られるべきだ……だが、軍機が漏洩しても今は人が死なない。だが、我らの到着が遅れたならば、帝都の民に無用な犠牲が出る。それは帝国軍人として見逃すべきことではないと私は思う……」
竹下は帝都の方角を見つつ言うと高橋に向き直ってさらに続けた。
「艦長、責任は私が取る。長官職ひとつ返上、最悪予備役編入を願い出れば良いだけのことだ。このまま全速で品川へ向かいたまえ……どうせ海軍中央は身動きなどと取れんさ……」
竹下の言葉に高橋は覚悟を決めた。
「その時には長官にお供します。速度そのまま、ヨーソロー!」
それから暫くして英国艦が並走し、礼砲を発砲した。英国艦はダナエ級軽巡洋艦デスパッチであった。
ダナエ級軽巡洋艦は帝国海軍では天龍型や球磨型と同様の単装砲塔を船体中心線に6基装備する艦だ。建造は欧州大戦中から大戦後に行われている。強力な武装を搭載した艦であり、平時においては植民地支配において目を光らせる役割を有する艦であると言えるだろう。
「長官、英国艦より発光信号! 『貴国の被災に哀悼の意を表す、我、帝都への救援に向かう』」
艦橋見張り員からの報告に竹下と高橋が頷く。
「『貴国及び貴艦に謝す。我にかまわず、先を急がれたし』と返信せよ」
竹下の指示を受けて見張り員は探照灯へ走っていく。
「さすがに見られたからと言って沈めるわけにも参りませんからね……」
「すばしっこい巡洋艦相手ではこの長門でも苦戦するだろうよ」
高橋の冗談に竹下も応ずる。
「戦艦というヤツはひどく中途半端なのかもしれんな……速度では巡洋艦などに勝てぬし、大口径砲があってもすばしっこい奴には無力だ……」
「ですが、同じ戦艦や地上など相手であれば十分に……」
「戦艦に戦艦をぶつけるのは非効率だと思うが……まぁ、戦艦を沈めることが出来るのは結局戦艦しかいないからな……やはり、そうなると速度が重要と言わざるを得ぬな……」
「そうですな……」
竹下と高橋の会話に20年後の未来が垣間見えた瞬間だった。
下手な絵ですみません。




