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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2594年(1934年)

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手を携える<1>

皇紀2594年(1934年) 11月20日 帝都東京 市ヶ谷 有坂本邸


 海軍省を辞した平賀譲造船中将は公用車を市ヶ谷へ向かわせ走らせる。向かう先は有坂本邸である。


 財界のサロンとして、裏の政府として帝国における重要人物が夜な夜な集まる有坂邸であるが、この日も多くの財界人が集まり中堅官僚らと会食を楽しんでいる。


「おぉ、中将、久しいですな。海軍さんにはこのたびは多用途艦の発注をいただきありがたい限り、今後も御国へのご奉公をと考えております故、よしなにお伝え下さい」


 最近勃興しはじめた日本海側の中小造船企業の社長であった。平賀は一瞬誰か分からなかったが近くにいた川南豊作が以前に紹介してきた若社長だと思い出す。


「あぁ、若竹君か。あのくらいの船ならば君のところの造船能力でもなんとかなるだろうからな……あれらは君らのような新進造船会社の方が新造船方式として吸収しやすいだろうから、まずは受注分をきっちり建造して御国に納めて欲しい……いずれは御国からの発注ではなく、自前で受注を勝ち取れるように成長して貰わんと困るぞ」


 激励とともに釘を刺すことを忘れない平賀である。


 艦政本部の(ぬし)である平賀にとってはきっちりと良いフネを造って貰うのが一番である。目に付きやすいカタログスペックのために居住性や艦の復元性能などが犠牲になっては元も子もないと考えている。


 そしてブロック工法はまだまだ未知の部分も多い。技術的には進展しているが、史実(前世)のような第四艦隊事件や最上型軽巡、大鯨みたいな電気溶接が原因の施工不良などが起きても不思議ではない。また、日本では問題がなかったが、アメリカの戦時標準船の様に停泊中に真っ二つなどということは絶対にあってはならないと考えていた。


「少しでも海軍や川南工業の手本通りにならないことや、不審な点、異常を感じたら工事を中断して報告を出すように……それでもし納期に遅れようと海軍は責を君たちに負わせぬと約そう。それで工事を続行して得るものは失うものよりも遙かに少ないと心得よ」


「心得ております……ご安心を」


 満面の笑みで太鼓判を押す若社長に手を振り洋館から指定部分である日本家屋へ足早に向かう。時間をとられてしまった分を少しでも取り戻すといった感じだが、数分のそれなど大したことがないことは平賀には分かっていたが、それでも心は少し急いていたのだ。


 途中で女中を捕まえると有坂総一郎の元へと案内をさせる。


「平賀様、これで汗をお拭き下さい」


 女中から渡されたシルクのハンカチを受け取ると額をそっと拭う。思ったよりも汗が流れている。暑いはずだ。


「旦那様、平賀様がおつきでございます。ご案内しておりますがお入りいただいてもよろしいでしょうか?」


「あぁ、入っていただいて……あと、結奈を呼んできてくれないか、結奈が来たら人払いを厳重に……」


「心得ました……平賀様、どうぞ」


 女中が障子を開き部屋の中へ平賀を通すと静かに障子を閉めて出て行く。


「洋館はいつもの通りだな」


「ええ、いつも通りです。千客万来、諜報の場ですよ。A機関の甘粕さんに読唇術を使える人材を貸して貰っています。招いている客と客も接点のある人間同士にセッティングしていますから、ついうっかりでポロッと部外秘を漏らすこともあるのです。それを断片情報として他の情報とつないで……」


 総一郎はそう言うとそれ以上は口に人差し指を持っていってパチッと片目をつむった。


「その断片情報は同様に英米列強にも漏れていると認識すると言うことか……」


「その通りです。我らが大和型戦艦もそうやって英米には建造の事実を握られていましたからね。まぁ、46センチ砲だとは最後まで信じられなかったみたいですがね」


「八八艦隊の時に計画されておったのに連中ときたら我らを舐めておるとしか思えぬ時がある。それが故に足下をすくわれておるというのに……」


「足下をすくわれておるのは我々もです、そこはお互い様でしょう。さて、中将、今日はどういった御用向きで?」


 そこまで言ったあとはいつものなんとも言えないアルカイックスマイルではなくキリッとした表情に変わっている総一郎のそれは平賀が重大なことを伝えに来たと見抜いているように見える。


「詳しくは細君が来てから話そうか。あと、紙とペンを用意してくれぬか」


「では、これを……」


 脇に置いていたメモ用紙とペンを差し出す。


「これくらいあれば十分ですかな?」


「あぁ、十分だ。これは流石に人払いしていても念には念を入れておくべきだろう」


「ほぅ、それほどの重大事ですか」


「少なくとも、彼や君らにはそうなるだろうな……」


「なるほど」


 総一郎がそう言うとタイミング良く声が掛かった。


「旦那様、中将閣下、結奈ですわ。入りますけれどよろしくて?」


「役者は揃ったな……あぁ、東條がおらぬが、まぁ良い……結奈君入ってくれ」


 平賀がそう答えると結奈はいくつかの料理と酒を手に入ってきた。

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