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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2594年(1934年)

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欧州情勢は複雑怪奇

皇紀2594年(1934年) 9月28日 欧州情勢


 ソ連海軍にとって場当たり的な補修整備のためのでっち上げ航海であったが、それが意図しない形で世界に影響を与えている。


 史実と違い、独伊との関係が極度に悪化していることもあり、ドイツ製の工作機械やイタリアの海軍技術指導が手に入らないことがソ連海軍へ与えている影響が深刻であったことが原因なのであるが、それはそのまま米ソ接近へと寄与することに繋がっていた。


 フーヴァー政権の国務長官ヘンリー・スティムソンによる私的な失言からアメリカの旧式戦艦譲渡の可能性が未だに疑われている中での米ソ海軍交流は欧州列強に明らかに過剰な反応を引き起こす結果になった。


 エーレスンド海峡、スカゲラック海峡を抜けての大航海であることから特にドイツ海軍を刺激し、本国海域に残留しているザイドリッツ級襲撃艦4隻と随伴の駆逐艦、水雷艇がキール軍港から緊急出港し備えることとなった。


 12インチ砲3連装12門を搭載するガングート級戦艦は腐っても戦艦、これに対抗するには28cm砲3連装3基を有するザイドリッツ級襲撃艦の全力出撃しかドイツ海軍には手段がなかった。


 デンマーク領ボルンホルム島には英独の海軍武官がすぐさま派遣され、バルティック艦隊の監視任務に就くことになっているが、これは英独海軍が海峡地帯の通過へ圧力を掛けるための国際協力であった。


 ポーランドとチェコスロバキアを取り込んでコメコンを結成したソヴィエト連邦に対する警戒感は英独共通のものであるだけにバルト海側ではドイツ海軍が睨みを効かせ、北海に入ったらイギリス海軍がその役割を引き継ぐことになっている。


 レニングラード湾を出たバルティック艦隊のそれはフィンランド、スウェーデン両国から逐一情報共有が為されていることで陣容や航海速力は把握出来ていたが、ガングート級戦艦2隻以外に随伴の艦艇は旧式だが砕氷能力のある装甲巡洋艦が3隻帯同するのみであった。


 この情報で英独は第一寄港地にポーランド領のグディニアを予測された。ダンツィヒ自由市からの観測情報でポーランド籍のタンカーが入港していることが判明しており、これを徴用帯同させることで大西洋を渡るのではないかとこの段階では予想されたのである。


 問題はスカゲラック海峡を抜けた後、北に転針してシェトランド諸島沖を通過して北大西洋へ抜けるのか、それとも南下してドーヴァー海峡を抜けるのかだ。南に抜けるのであれば第二寄港地は共和スペイン領であろうと推測出来る。


 英独の懸念点はバルティック艦隊の航海そのものだけではなかった。


 仮に大西洋を横断してアメリカに行くならそれはそれで構わないのだが、共和スペインに向かった場合だ。この場合、共和スペイン領内に入った時点でソ連が共和スペインへ譲渡した場合、地中海もしくは北大西洋におけるパワーバランスに影響を与えるからだ。


 特にソ連の影響が大きい共和スペインのアサーニャ政権が国内の引き締めに利用などしたら国粋派との政治闘争に大きく影響を与えかねないのだ。


 史実では国粋派のフランコ将軍の決起に始まるスペイン内戦の結果、共和スペインが敗北したことで終わるが、共和派に軍事力が上回るもしくは制海権を握ればたちまち国粋派の不利となる。そうなれば、欧州は東西から赤化勢力の挟み撃ちに遭うことになるのだ。この恐怖は特にドイツ軍部において現実的に起こりうる問題として真剣に討議されている。


「もし、ガングート級戦艦がスペインに譲渡ないし売却される場合、国粋派を支援してクーデターを発生させるべきだ……その時はイギリス、イタリアを誘ってスペインを包囲する」


 ドイツ首相アドルフ・ヒトラーは国会議長であり側近であるヘルマン・ゲーリングへそう伝えていた。これにゲーリングも同意し、秘密裏に特使がイタリアへ派遣されたのである。大西洋の出口であるジブラルタルを封鎖されかねないことからイタリア側の事情もドイツとほぼ同様であり、同意を得られるとヒトラーは踏んでいた。


 イギリス側もジブラルタル封鎖という現実的な懸念を抱き、本国艦隊の一部をジブラルタルへ向け回航することを秘密裏に決定していた。これにはグローリアス級空母3隻が揃って配置されることとなっていたのだ。


 イギリス海軍が空母をジブラルタル配備へと振り向けたのは先のバルカン戦役での帝国海軍の欧州派遣艦隊が空母を沿岸域戦闘で活用した実績からであった。弟子から師が学んだのだ。


「航空偵察によって敵陸上部隊を足止め、牽制し、味方地上部隊を支援する」


 そして彼らは単発複座偵察戦闘機(フェアリー・フルマー)開発着想をこの時得るのであった。後に史実とは異なる経緯で同様の機体を開発することになる。


 いずれにしてもジブラルタル防衛の意志は固かった。しかし、バルティック艦隊そのものへの備えで他の戦艦をジブラルタルへ向けることは出来なかった。ゆえにまとめて3隻の空母を向かわせたのだ。


「戦艦が必要ならフランスとイタリアから調達すれば良い」


 ある種の割り切りである。地中海は仏伊の庭である。そして彼らは十分な戦艦を有しているのだから連携すれば問題ない。


 それぞれの思惑はありながらも、共通の懸念から自然と連携を模索する形となっていったのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] イタリアから諸々が入らないとなると、例のT34の心臓部、後のロシア系ディーゼルのベースになったイタリア製V12気筒エンジンとその技術が手に入らない事になりますね。 あれ無くしてT34の高機動…
[一言] 内部分裂の酷い仏はともかく英独が連携ですか。 史実では放置してましたが……。 米国準拠となると航続力が長く沈みにくい艦になりそうですね。 米国による南米のスペイン語圏への圧力も高まりそ…
[気になる点] そういえば「Gangut」は「OKT. Revolutsiya」に改名は1925年ですが、この世界だとやってないのでしょうか? 1930年の近代化改装も独伊の影響でやってないのですか…
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