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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2594年(1934年)

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掃除

皇紀2594年(1934年) 9月19日 満州総督府 錦州地方


 岡村寧次少将率いる日伊連合部隊は鉄道輸送によって錦州地方の山間部にある炭鉱地帯北票への分岐点である金嶺寺へ移動している。


 満鉄が誇る新型貨物用機関車であるマテイ形が牽引する軍用貨物列車が仕立てられ、15両のCV34がそれぞれ長物車に載せられ、その他の装備を満載した無蓋車・有蓋車・客車がその後に続いていた。この軍用貨物列車が金嶺寺の操車場に滑り込むと一度機関車は石炭と水の補給のために切り離されて機関区へと移動した。


 操車場に留置された列車の後ろにつながれている軍用客車から歩哨のための歩兵が降車し警戒配備を取り始めたその瞬間に銃撃が始まったのである。操車場にはいくつかの貨車があり、その中から飛び出てきたゲリラ兵、別の貨車の陰に潜んでいたゲリラ兵が歩哨を制圧すべく行動を開始したのだ。


「敵襲!」


 歩哨の一人が叫ぶと軍用列車の有蓋車や無蓋車に潜んでいた兵たちが躍り出て返り討ちにすべく行動を開始する。無蓋車に掛けられていた被覆(カバー)が剥がされるとそこには機関銃座が設置され、火力支援がすぐに始まったのだ。


「待ち伏せだ!」


 支那語でそう叫ぶゲリラ兵はすぐに戦意を失いてんでバラバラに逃げ始めるが、そこに真打ち登場とばかりに装甲列車が進入して通せんぼする。装甲列車の銃座からも盛んに銃撃が行われ、右往左往するゲリラ兵を容赦なく打ち倒していく。


 ゲリラ兵は元々潜んでいた貨車に隠していた迫撃砲で反撃を試みるがそれとて多く砲弾があるわけでもなく、まして訓練を受けている訳でもないゲリラ兵の扱いでは見当違いの方向や射程で全く効果を発揮することはなかった。


 襲撃を始めた時点で100名程度いたゲリラ兵だが、統一した指揮系統を有していないこともあり最初の反撃と装甲列車の登場によって半数近くを射殺され、10名程度が戦意喪失して集落に逃げ込んだが、現地配備の憲兵隊によって射殺もしくは捕縛された。


 装甲列車からの砲撃で破壊された貨車の残骸に隠れ戦闘を続けている20名程度はやがて弾薬を使い果たすと鍬、鋤、鎌を片手に突っ込んできたが、そのすべてが機関銃によって制圧された。辛うじて生きていても手足がもがれ今後まともな生活を送れないものばかりだった。


「今生きている奴はそれ以上撃つなよ? 口を割らせるまでは死んでもらっては困るからな」


 若い陸軍士官はそう言って不用意に近づいたところで最後の力を振り絞って起き上がったゲリラ兵に鎌で斬りかかられた。


「危ねぇな……」


 自身の不用意さによるものだったとは言えど、とっさに抜き放った軍刀で一閃してから難を逃れた彼だったが、振り下ろされた鎌による裂傷から血が流れる。


「抵抗されても困るからな。手足は切り捨ててしまえ、どうせゲリラだ。法の保護など自分で捨てた輩だ。あと、自害されても困るから猿轡はしっかりしておけよ」


 部下に指示を出すと火炎放射器を持った兵が近づいてくる。出番が来たことで出て来たのだろう。


「あの貨車にまだ残党がおるかもしれん。丸焼きにしてやれ……あぁ、貴様はゲリラが飛び出てきたときに対処するために抜刀して待機せよ」


 後の処理を部下に命じると彼はその足で金嶺寺の集落へ向かっていく。そこには彼が本来属する憲兵隊の屯営がある。そこにも同じく生け捕りにされたゲリラがいるはずである。


「少佐殿、やつらは一向に口を割りません」


 屯営に入ると部下からの報告はまずそれだった。


「そうか、では、やつらの所持品で出身地が分かるものがあったか?」


「一つだけ……この近くの村の名物が……」


「分かった、その村にこやつらを連れて行き様子を見ようか……それで何か尻尾を出すならば……」


「承知しました……では、早速……」


 少佐と呼ばれた若い士官に敬礼をして憲兵は去って行く。彼らの仕事は拷問をすることでもあるが、それは情報を得るためのもので、本業ではない。だが、必要に応じてはそれを活用しているだけだ。そして、それを積極的に行うべきならば、それを厭うことはない。


「閣下、奴ら、大した情報持っていませんよ……野盗がゲリラと名乗っているに過ぎんのではないですか」


 彼はそう呟くと電話を掛ける。


「あぁ、私だ。四方だ。そう、陸軍憲兵少佐四方諒二だ。鉄道連隊に予定通り操車場の復旧を連絡してくれ。あぁ、こっちの掃除は終わった」

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