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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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指揮系統は明暗を分ける

皇紀2583年(1923年)9月1日 帝都東京


 地震発生とともに帝都各所の避難所は騒然としていた。パニックに陥る者などは後を絶たなかった。


 帝都市民も防災演習で避難訓練をしていたのに、まさかそれが本当の地震に遭遇するなど誰も思っていなかったのだから仕方がないことだ。


 だが、彼らがパニックとなったのは先程まで自分たちが居た建築物が軒並み倒壊していく様を見たことによるものだった。一時的にパニックとなった彼らも崩れ落ちていく建築物を目の前にして呆然とし立ち尽くすのであった。


 幸いだったのは帝都中心部においては殆どが建物の外に避難していたことで圧死したものが限りなくゼロに近い状態だったことだ。


「まずは、圧死する者を極限に減らすことが出来たことは幸いだと考えるべきだろう……」


 防災演習指揮所、改め、災害指揮本部で檄を飛ばし、指揮所に詰めていた者たちを奮起させた東條英機少佐は震動が収まった時にそう呟いた。


 彼は帝都各所の指揮支所へオートバイ部隊や自転車部隊を派遣し、要所要所の被害状況把握に努めることとし、指示を出すとともに宮城御所、東御苑(旧本丸)、赤坂御所へも安否確認のために伝令を向かわせた。


 皇族方もまた、この防災訓練という名目の事前避難へ参加しているのであった。開けていて安全であると思われる東御苑(旧本丸)へ避難する手筈となっている。


 皇族方への手当てをすると彼は帝都各所の被害状況の把握と陸軍部隊の出動に関して次なる策を練った。


「まずは、火災が発生している場所が最優先だ。倒壊している建物の被害報告など要らん! 必要なのは道路が通行可能であるかどうか、火災がどこで発生しているか、どこが孤立しているか、それらの情報だ!」


 被害状況担当者が詰めている天幕へ顔を出した東條は彼らにそう伝えるとすぐに次へ向かう。


「怪我人の状況は逐次把握し、手当てすれば助かる重症者が多い地域を優先して救助に向かえ、その次が軽症者の多い地域だ! 優先順位は以上の通りである! 行動計画書と同じことを実行せよ!」


 次へ顔を出したのは救護本部であり、同様に指示を徹底する。


 東條が念押しして回っているのは彼が他人を信じていないからではない。


 一度停滞した状況が動き出した場合、一気に情報が上がってくる。当然そうなれば、一時的に処理落ちする人間が出てくるからだ。だからこそ、行動計画書に記されていることを口頭で厳命して回っているのだ。


 往々にして指揮する立場の人間が機能不全に陥り、組織全体が機能停止する。であるならば、自分の目が届く範囲で、発破をかけて歩くだけで機能回復出来るのであればそうする……彼はそう考え指揮所全体をめぐっているのだ。


 彼が指揮所を一巡して自身の天幕に戻ってきた時に報告が上がってきた。


「帝大方面において火災発生とのことです」


「なに? 帝大だと!?」


 史実にはない火災発生に東條は焦りを感じた。


「規模は? 延焼しそうか?」


「詳しくは第二報を待ちませんとなんとも……」


「……動物園はどうだ? あそこの猛獣が逃げ出すと拙いぞ……」


「動物園に伝令を出します……最悪殺処分を命じますが……よろしいですか?」


「あぁ、構わん……帝都市民を犠牲になるくらいなら動物には死んでもらおう」


 伝令兵が敬礼をしてすぐに天幕を出て行った。


「何もかも史実通りとはいかんか……帝大ということは研究室か何かの薬品が倒れて化学反応で発火したのだろうな……風向きから考えると上野方面はすぐに退避させるべきか……誰か!」


 東條は待機していた別の伝令兵が天幕へ入ってくると上野方面に対して鶯谷以北への避難を命じた。


 それから暫くすると帝都各所から情報が入ってくると同時に、道路寸断の情報や孤立した地域の情報が入り、東條は忙しくそれに対処忙殺されることとなった。


 この時、陸軍省及び海軍省は機能不全となって指揮系統が混乱していたが、東條指揮下の災害指揮本部とその指揮系統に組み込まれていた内務省、警察、消防、東京市は機能不全となることなく自らの職務を全うしていたのであった。

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