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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2594年(1934年)

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轡を並べる

皇紀2594年(1934年) 9月10日 満州総督府領 奉天


 奉天郊外にある蘇家屯は満鉄の機関区が有り、また操車場が広がっているが、この広大な操車場に多数の戦車が集結している。試製九四式軽戦車、改め九四式軽戦車と輸出型であるCV34がそこには存在していた。


 ベースは同じものであるが、塗装が全く異なる。帝国陸軍は緑・茶・カーキ・黄線の迷彩であるが、イタリア陸軍はデザートイエロー単色である。CV34はそのために目立つことこの上ない。


 だが、この目立つそれが今回の作戦には非常に望ましいのであった。


 本来、大連港に陸揚げされたCV34はそのまま大連から奉天を経由して天津へと向かう予定であった。天津で陸揚げしなかったのは天津港の港湾設備が貧弱であったこと、陸揚げ後の保管において安全であったことから大連を選んだことが理由であった。


 本来の予定を覆して途中の蘇家屯で滞留しているのは関東憲兵隊司令官である東條英機中将が待ったをかけたことによる。イタリア陸軍戦車連隊指揮官は停滞させられたことに不服を申し立て、大連の憲兵隊司令部に怒鳴り込んできたが共同作戦を提案されたことでそれに同意して素直に従ってくれた。


 元々地位を考えても中将と大佐では拒否を申し立てることも難しかっただろうが、海軍同士が共同して海域警備を行っている都合からイタリア戦車連隊もまた帝国陸軍による指揮系統に組み込まれることとなったのだ。この時、関東軍から総参謀副長である岡村寧次少将がイタリア戦車連隊を統括する日伊連合軍の臨時司令官として新京から奉天に出向いてきたのであった。


「やあ、イタリア軍将兵諸君、新型戦車を受け取り本国へ帰国中の貴官らがこの様な極東の辺境に寄り道することになってしまったことに申し訳なく思うが、我々関東軍は諸君らを心から歓迎しする」


 岡村はそう言って労いの言葉をかけると部下に合図を出し準備させたモノを配らせた。


「これは諸君らを労うために本国から取り寄せたワインだ。イタリア製のワインに比べるとまだまだ品質は追いついていないかもしれんが、それでも国産ワインでは出来が良いと評判のモノを用意した。数に限りはあるが、呑みきってくれて構わん。今夜は無礼講である、さぁ、大いにやってくれたまえ」


 副官から受け取ったワインボトルをイタリア連隊指揮官に手渡すとがっちりと手を握りニカッと笑って言い放った。


 岡村は将兵たちが肩を組んで飲み始める光景を見つつ欧亜大陸の西の端から来た彼らがどれだけ本国の土を踏めるのであろうかと思いをはせていた。それは岡村の隣にいたイタリア人士官たちも同様であったのだろう。


「閣下、我らは帝国陸軍の指揮下に入りますが、本来の役目は租借地の防衛にあります。直接ソ連赤軍との決戦には……」


 肩章を見る限り中佐と思われる将校が岡村に控えめであるが意見具申を行う。彼は時折部下たちの法に視線を向けつつも岡村に明快な答えを求めた。


「分かっておるよ。諸君らを露助どもとの抗争に巻き込むつもりはない。こんなもの所詮本質はヤクザやマフィアの抗争みたいなもんだ。無関係のお客さんが馬鹿を見ることはない……だが……この満州や北支の大地に根付く居留民はそうじゃない。今こうしている間も赤化ゲリラや馬賊や匪賊くずれの脅威に怯えておる。そして奴らはソ連という大きな脅威を利用して文明国(我ら)に牙を剥いておるのだ」


 岡村は苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべ、ここではない別の場所での悲劇を想起しつつイタリア人将校に向かって言う。


「閣下の仰るとおりであります。我らはそれらこそを憎み、こうしてここにおるのです。閣下、今日から我らは友であり、兄弟です。ともに仇なす輩を成敗しましょうぞ」


 酔いの回った将校がグラスを掲げて岡村に絡む。苦笑いを浮かべつつも酔った将校許し後を任せると岡村はその足で奉天駅へ向かった。彼は大連で会う人物が待っているのだ。

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