表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2594年(1934年)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

721/910

それぞれの思い込み<1>

皇紀2594年(1934年) 9月8日 満州総督府領 奉天


 国際的枠組みでは名目上満州は支那という国家の領域に含まれていると扱われているが、それは文字通り名目であって、その実、列強諸国はどの国も支那領域と扱うことはなかった。満州事変以来の既成事実化と権益の分配で満州を支那領域として扱うことが列強諸国にとっては不利益となったからである。


 そんな満州には数多くの外国人が訪れ、その巨大な市場にシェアを伸ばそうと日夜駆け引きが行われている。満州最大の都市である奉天はまさにそんな外国人ビジネスマンの集中する都市の一つである。その奉天の夜に轟音を響かせながら東の空から謎の巨人機が飛んで来たのだから騒動の一つや二つが起きても不思議はない。


 東方から飛来した巨人機は真紅の塗装を施され、尾翼に金鵄が描かれたド派手な機体であり、欧州でも数少ないユンカース社のG.38旅客機に酷似したそれであった。奉天に駐在する外国人は揃って仰天し、欧米の通信社の特派員などはカメラを持ち出して撮影しようとしたが、揃って憲兵隊のお世話になりカメラと写真は没収され、スパイ容疑で検挙される有様だった。


「夜半に超重爆飛来す。尾翼の金鵄がその塗装と相まって禍々しさを強調している」


 ニューヨークタイムズの特派員は本国へ打電し、日ソ開戦かと騒ぎ立てる記事とともにトップ扱いで報道されることになった。


「日本帝国は軍縮の裏で超重爆の開発に手を染めていた。これは重大な背信行為である」


「我が合衆国は日本軍国主義の無謀な挑戦に立ち向かうべきである。盟邦ソヴィエトへの援助を増やすべきである」


 対日強硬、反日偏向の傾向が強いニューヨークタイムズはここぞとばかりに反日親ソの論調で経済制裁や武力制裁を訴える紙面づくりであった。無論、モンロー主義傾向の強いアメリカ国内世論はこれら先鋭的な報道を冷ややかな視線で見ていたが、それでも公平を重んじる傾向があるアメリカ世論には微妙に影響を与えていた。


 だが、逆に欧州からの特派員たちが出した速報は逆であった。


「昨夜飛来した真紅の超重爆は日本神話に登場する霊鳥が如きものである」


「前線からの報告によるとソ連赤軍の最前線部隊が後退したという。超重爆の飛来によって和平の道が開かれんことを願う」


 この新聞報道の論調の違いはそのまま満州と北支に権益があるかないかによって分かれていたと言っても良いだろう。


 英仏独伊の各国は揃って好意的であったが、皆、大日本帝国によって満州権益を譲与され、北支の分割に参加して収奪に励んでいる。逆にアメリカは満州にも北支にも権益を得ておらず、蒋介石との関係を深め、日欧との亀裂を深めていた。


 実際、欧州紙の報道にあるようにゲオルギー・ジューコフはソ連赤軍の撤退を指示していた。これは九二式重爆撃機の飛来による直接的な影響ではなかったが、間接的には影響があった。ジューコフの真の目的は大興安嶺要塞がいつでも突破出来るという心理的圧力をかけることと内蒙古への拠点確保、北京北洋政府の崩壊が狙いであったことから概ね目的を達成していたのだ。


 ジューコフは当初の狙いがほぼ達成出来たことで戦線の整理を考え、内蒙古どころか張家口やフフホトまで出張って略奪を繰り返す部隊が出始めたことで統制を図る必要が出てきた。その時に丁度折良く奉天に九二式重爆が飛来したとの情報を得たことで、ならず者たちに撤退命令を出す良い機会となったのであった。


「敵の超重爆が飛来した。奴らは先年、蒋介石の軍隊を焼夷弾と毒ガスで焼き殺した。それを貴様らは忘れていないだろうな? 今度はお前たちがその番になるぞ? 私の命を拒んで党への裏切り者になって処分されたいか? それともヤポンスキーの火祭りを楽しむか? 好きな方を選べ」


 ジューコフの脅しは効果覿面であった。


 シベリア出兵による『Yellow demon's attack(黄鬼の攻撃)』もしくは『Banquet of demons(鬼たちの宴)』をも彼らの脳裏には焼き付いていたのだ。空襲を生き残れたとしてもどこからともなく夜襲を仕掛けられ何度打ち倒そうと襲われる悪夢しかソ連兵たちには想像出来なかったのである。しかも、逃げ切ってもそこにはチェーカーが待ち構えていて遠慮なしに機関銃で処刑さ(気合いを入れら)れる未来しかないのだ。


 彼らが素直に応じ撤退したのはそういう理由があったのである。


 しかし、欧州列強の面々にはタイミング的に九二式重爆の進出による抑止力と捉えられたのであったが、それが誤解によるものであり、誤解こそが戦局をややこしくさせる原因であるのはこの時点では誰にも分からないことであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
Японский の発音は ヤパンスキーではなくヤポンスキーです。
[一言] うわ~九二式重爆の登場は相当な影響及ぼしてますね…ここから蒼山とZ飛行機へどの様につなげていくのやら。 それと戦車開発も急がないといけない気が…オイ車までは行かなくともチヌ相当の戦車を開発出…
2021/06/02 20:37 退会済み
管理
[気になる点] 列車砲開発競争に加えてドゥーエ理論の実践で大型機開発競争まで巻き起こるのかな? 超巡に加えてこんなゲームチェンジャーがワンさと揃ったら史実なんぞ役に立たんや内科
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ