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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2594年(1934年)

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アルカイックスマイル

皇紀2594年(1934年) 8月 帝都東京


 イタリア大使館の応接室には三菱重工業や陸軍技術本部など主立った戦車関係者が居並んでいる。彼らもまた持ち込んだもののイタリア政府・軍に相手にされるか疑わしいと考えていたが、彼らは売れなければこの先が見えないだけになんとしてでも売り込みたいという思いが見え隠れしていた。


 イタリア側の駐在武官は事前の資料提出によって本国に問い合わせをしていたが、恐らくは相手にされないだろうと思っていた。が、……。


「昨日、本国からの返信が届きまして……お喜び下さい。貴方方の熱意は本国に届いている様です。正式採用は今後の結果次第ではありますが、まずは試作車両を受領し、我が軍兵士の手で運用してみたいと考えているようです」


 茶髪碧眼の駐在武官はまるでオペラの俳優のように芝居がかった様子で本国の返答を伝えた。大袈裟な身振り手振りではあるが、様になっているだけに別の意味で呆れるしかない。


「そうですか、それはよかった。それで、御国の戦車兵はいつ到着するので?」


「来週のパンナム香港便を経由で着任するようです。大隊規模の人員が最終的には派遣される予定ですが、そちらの準備は如何ですかな? 売り込みをかけるくらいですから、最低でも30両程度は用意出来ていると考えておりますが如何?」


 眼光鋭く胸の内を見透かすような視線を向けてくる彼に原乙未生中佐はいつものようにニコニコとした笑顔で応じた。原の笑顔の内にあるものを見透かすことは難しく、駐在武官は視線を緩める。


「元々我が帝国陸軍での採用を目指して開発していたのですが、何せ我が帝国陸軍は貧乏でしてな……あれもこれもと揃えるのは一苦労でして、御国なら近々予算が増えそうですが、逆にこれといった戦車がなくて苦労しているようですからな……お互い袖振り合うも多生の縁ということで……」


 原はイタリアがアビシニア侵攻を計画していることを知っているぞと敢えて言外に含めた。これでどう出るか、それによって日伊関係に影響を与えると警告したのである。


「確かに我が統領(ドゥーチェ)は軍の近代化、そして大ローマ復興を掲げておりますからな。先のバルカン戦役での自転車部隊が我々の想像以上の機動力を発揮して少ない戦力であるハンガリー軍を実態以上の戦力に押し上げた実績を我々は高く評価しております……故に貴国の要望に統領(ドゥーチェ)が応えたと言うことでしょう」


 原の探りに駐在武官は一瞬眉をひそめるもヨイショで返し、具体的には何も応えることをしなかった。だが、彼の視線は随行員である三菱社員をも含めて一巡するのであった。


「如何しましたかな? 我々は御国から対価を得る。御国は我らから未採用であっても纏まった数の戦車を得る。お互いに良いことではないでしょうか……あぁ、そうそう」


「なんでしょうか?」


 駐在武官の原へ険しい視線を向ける。


「そう邪険にせんで下さい。そちらの三菱さんから戦車運用について観戦武官ではないのですが、補助員を出そうと思っております。この戦車はあくまで満州や支那、あとは内地での運用を基本としているために御国の運用において最適とは限りませんからな。想定外の故障や問題を起こすかも知れません……そのための応援人員です。一定期間が過ぎたら引き上げますからご安心を……」


「その話は聞いておりませんぞ、余り勝手なことを言われると前向きな本国であっても交渉打ち切りを言い出すかも知れません」


「なに、そこはメーカーのアフターサービスという奴です。御国が心配されるようなことはありませんよ。それにその話は今頃はローマの我が大使が直接統領ドゥーチェに説明していることでしょう」


 相変わらず笑顔を浮かべる原であったが瞳の奥が一瞬だが光り、口角を上げていたがそれもまた一瞬であった。

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