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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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焦土と攻勢限界点

皇紀2583年(1923年)8月31日 コムソモリスク=ナ=アムーレ


 浦塩派遣軍の進撃に呼応し、真崎甚三郎少将に唆されたサガレン州派遣軍は間宮海峡の最も狭くなり幅5km程度となるラザレフの地へ8月23日に強襲上陸、陸路、南進し港町のデ=カストリを24日に陥落させると一路アムール川流域へ進撃を続けた。


 この快進撃には立ちふさがる敵がいなかったとはいえ、自転車装備による機動歩兵化していたことが大きな成果を生んでいた。


 真崎は帝都を発つ際に参謀次長武藤信義中将へ装備改変を要請し、自転車とリヤカーを大量に受領していたのである。これによって馬匹を用いない行動を可能とし、同時に歩兵の移動速度を高めたのである。また、民間人の島津楢蔵を通じて彼の自動車学校を出たオートバイエンジニアを招集し、オートバイ部隊を構築し、司令部要員の移動や偵察に活用したのである。


 真崎がなぜこのような先進的なことを思いついたのかはわからないが、彼の行動によって彼の部隊は驚異的ともいえる機動力を獲得していたのだ。


 真崎兵団は26日未明にアムール河畔のツィムメルマノフカに到達するが集落を迂回そのまま通過し、コムソモリスク=ナ=アムーレへ進撃し、日中は山中へ隠れ、28日未明に突如としてコムソモリスク=ナ=アムーレに来襲し、これを陥落させしめた。


 真崎兵団もこれには拍子抜けしてしまい、敵の策かと疑ったが、僅かな抵抗の後に投降し捕虜となった極東共和国軍の兵士から事情を聴取した結果、近隣の町からも主だった部隊がハバロフスク方面へ引き上げられ、また、パルチザンなども同様にハバロフスクへ向かったことが確認され、謀略や罠の可能性がなくなった結果、1個大隊を残し前進することが軍議の上で決まったのであった。


 だが、ここで問題となったことが一つある。とある報告が事態を一変させた。


 極東共和国軍の撤退によって弾薬だけでなく、食料まで持ち出してしまったことだ。極東共和国が焦土作戦を取ったことで完全に人心は離反したことによって、帝国は占領地における住民の鎮撫、慰撫を行わざるを得なくなったことで兵站の負担増大を招いたのだ。


 アムール川流域の都市や集落の住民は尼港事件の例もあり、食料をいくらか備蓄していたが、それを隠匿していたこともあり、焦土作戦によって収奪されても暫くは食つなぐことが出来たのだが、それも限界に近い状態であった。


「帝国は大東亜の秩序維持を担うべき立場にある。また、我が国是は八紘一宇であり、沿海州に住まう者たちをも助けるのは我らに課された使命である」


 真崎は軍議の席上でそう言い放った。


「しかし、我が第1連隊や第2連隊は攻勢に出るためにここまでやってきたのであって、彼らを養うためではありません……我らはあくまでハバロフスクを目指し進軍すべきです」


「そうです。我らには彼らに与える余分な物資はありません……サガレン州派遣軍の第4旅団からの増援部隊も同様です」


 第1連隊長岩倉正雄大佐と第2連隊長中村浜作大佐は自軍の兵站に不安があることを進言した。


 彼ら真崎兵団に与えられている物資はそれほど多くはない。あくまで敵と交戦することを前提としているもので、占領地拡大を目指すものではないのだ。


「貴官らは目の前で飢えている民を見殺しにするのか? あの者たちを我らが見捨てれば、明日は我らの後ろを襲ってくるぞ!」


 真崎の言葉は重みがあった。


 彼ら住民は極東共和国やパルチザンに酷い目に遭わされていたが、それとてそもそもは列強のシベリア出兵が原因でもあり、再びやってきた侵略者が自分たちに敵対するのであれば容赦する理由はないのだ。


「我らがまずやるべきことは、アムール川流域の各集落の住民の保護だ。そして、尼港の確保だ。これをやらなくては前に進むことはこれ以上は無理だ……」


「しかし、それでは補給線は伸びきってしまいます……一度、引くべきでは?」


「いや、そうもいかん……今引けば、結局、ここの民を見捨てることになる……敵が襲ってこずとも、民が襲ってくるのは目に見えておろう」


 真崎の言葉に続いて岩倉と中村が問答をする。


「いずれにせよ、ここが攻勢限界点だ……幸い、殆ど弾薬消費がなかった……おかげでここを拠点に敵の攻撃を食い止めることは出来よう……」

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