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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2594年(1934年)

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艦政本部の日常

皇紀2594年(1934年) 7月 帝都東京


 多用途艦、兵装転換構造艦と称される帝国海軍版MEKOは口で言うほど簡単なものではなかった。 仕様上での話は非常に都合が良い代物であったが、その内実、矛盾の塊であるのだ。


 兵装が異なれば当然のようにデッドスペースが生まれ、それをどうするかが問題となる。また、構造上の脆弱性をどう対応するか、それもまた設計技師を中心に頭を抱えることとなったのだ。どうしても設計上の最大規格の兵装の寸法に合わせる必要が出てくるために小口径砲の搭載を考えるとスペースが無駄になるのである。


 そこで、藤本喜久雄造船少将は開き直ってしまったのである。


「先送りすれば良いじゃないか、どのみち主砲などは時期を見て換装しないといけないのだから今存在する兵装で必要最大限のスペースをあらかじめとっておけば良い。改装時に最適化出来る兵装をこれから研究しておけば当面はこの問題を気にしなくて良い」


 藤本の一言で主砲に関しては合理化の名の下に四〇口径八九式一二糎七高角砲に統一されてしまった。実際、別の砲を積もうと考えたが、それが旧式であったり用兵側の要望と必ずしも合致しなかったのである。


「平射砲なら対地対艦攻撃に適当であるけれど、バルカン戦役を考えると対空攻撃能力は必須だろう。その際に中射程で敵を追い払うには高角砲である方が適当だろう」


 さらに藤本の合理的発想によって平射砲搭載案は見送られてしまったが、これは用兵側である軍令部も戦訓から納得していたことで異論は出なかった。しかし、軍令部側から一つだけ注文がついた。


「八九式を積むことに異論はないが、40口径しかない八九式では対艦対地能力が不足する。時期を見ての兵装転換は必須としたい。また、暫くは八九式を搭載するとしても即応弾の増載や砲の動力化などを検討してもらいたい」


 これは対艦戦闘を基本とする考えの用兵側からは譲れない一線であった。四〇口径八九式一二糎七高角砲は人力での射線移動となっているからだ。最低でもモーター動力による迅速な射線移動が望ましいのは誰の目にも明らかだった。人力で動かしている間に敵を追えないのでは砲の意味がない。


「では、長口径化は今後の課題として、喫緊の課題としては砲の動力化、即応弾の増加を軸として設計を改める方向で検討しましょう」


 藤本は平賀譲造船中将が頷くのを見て軍令部の要望を受け入れたが、この時点で概ね50~100トン程度の排水量増加が見積もられることとなった。元々余裕を持った設計であったため、その余裕分で吸収出来る範囲だが、動力化による重量増加はやはり大きい。モーターを付ければそれでおしまいではないからだ。


 しかし、これによって艦政本部は高角砲の動力化というステップを史実に比べて大幅に前倒しで実行することとなった。これは後に英断だったと称される結果を生むのである。


 また、九四式三十七粍機銃は単装、連装、4連装と各型式が用途別に搭載されることとなったが、砲艦の場合は主に魚雷艇やモーターボートへの制圧射撃を目的としたものであり、水雷艇や護衛艦にとっては対空自衛用という目的が強い。また、単装機銃は兎も角、連装、4連装機銃は動力銃座になっているため、迅速に敵機及び敵小型船を追尾が可能である。


 バルカン戦役では内陸国であるユーゴスラヴィアという格下相手であったことも幸いして被害は皆無に近かったが、イタリア海軍に魚雷艇を借りて欧州派遣艦隊は演習を行ったのであるが、魚雷艇による襲撃で護衛艦艇が壊滅するという演習結果に愕然とするほかなかった。まともな海軍運用能力を持つ国が魚雷艇を使って沿岸域戦闘を行ってきた場合、高速性能に優れる魚雷艇を阻止出来なければ甚大な被害を甘受せねばならないと帝国海軍は学んだのであった。


 しかしこれは21世紀初めのアデン湾やペルシャ湾の日常であることを一部の転生者にとっては「今更何言ってんの?」という水準でしかないが、当事者にすれば恐慌状態でしかない。


「高速で接近する敵を制圧するには鉄の暴風しかありません。なに、九四式なら威力十分ですし、追尾してガンガン撃てば接近するまでに撃沈出来ますよ……いや、木っ端みじんと言うべきですか」


 艦政本部の若手技官はニヤリと笑いながら平賀に答えた。


「平賀中将、出来れば8cm級の速射砲があればなお良いと思いますが、海賊退治や魚雷艇駆逐なら12cm級の出番なんてありません。8cm級速射砲と4cm級機関砲があれば十分です。射程と威力と給弾能力と考えればこれがベストです」


「まさか貴様、てん……いや、なんでもない。わかった、貴様の意見を採用しよう。だが、8cm級はまともな砲がないな……当面は八九式で代用することにしよう」


 それぞれの思惑の中、建造計画は概ね誰もが満足出来る域の計画値がまとまり漸くスタートすることとなったのである。


 34年の夏のことであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 砲架の動力化をするのでしたら 九四式三十七粍機銃の射撃指揮も含め Mk.51 射撃指揮装置クラスの射撃指揮装置の開発込みじゃないと意味を為さないかなと。
[気になる点] 40口径8センチ高角砲では使えんからなぁ。 でも、変態6ポンド砲を対戦車砲から作り出した紳士も居るからね?
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