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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2594年(1934年)

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電力問題<8>

皇紀2594年(1934年) 4月 帝都東京


 関西地区に給電していた日本電力は理想的水力発電の最適解であった黒部川にダム及び発電所建設を目論んだのであるが、そこに至る経緯から語る必要があるだろう。


 大正年間にアルミニウム精錬事業を行う東洋アルミナムが黒部川流域に工場を建設し、水力発電によって事業を行った。その際に黒部川の水利権を得て黒部鉄道を子会社として設立、発電・鉄道・アルミと事業拡大を進めていったのだ。


 その後、日本電力の傘下となったが、最終的に28年に合併し日本電力が黒部川の水利権を得るに至ったのだ。この間、鉄道は宇奈月温泉まで延伸し、工事専用鉄道路線として開発線が黒部川に沿って建設されることとなった。


 旧林道を改良することで路盤として再利用した上での路線建設となり、運用の都合上、軽便鉄道規格の762mmで建設となった。


 黒部川の各ダムの建設に先立って建設された工事専用鉄道路線は宇奈月温泉から小屋平までは29年夏までに完成し、完成と同時に小屋平ダムの建設が始まっている。史実では世界恐慌の影響で工事が一端中断され33年に再開されるまで進捗はなかったが、この世界では経済一人勝ちの状態が続いていることから建設は続行され33年には完成している。


 また、小屋平ダムの建設が進むと下流に出平ダムの建設が32年に始まっている。史実では80年代の建設であるが、電力需要の逼迫と先行投資の考えから日本電力は積極的な建設を推進していたのである。


 これには関西地区の電力戦が影響している。東邦電力・東京電力が東京電燈と京浜地区で電力戦を行っている間、日本電力・宇治川電気・大同電力が親会社子会社提携会社であるにも関わらず総力戦を展開したことで起きていたのである。


 元々日本電力は宇治川電気の子会社であったが大同電力からの配電を受けていた親会社の宇治川電気に対して大口需要家の獲得と配送電網の拡大を狙ったことで起きた関西電力戦には大阪市・京都市と言った自治体による公有発送電事業も大きく絡んでいるだけに京浜地区のそれとは比べものにならないほどの消耗戦であったのだ。


 結局、宇治川電気が大阪市の公有発送電事業を、日本電力が京都市の公有発送電事業を引き受け合併させることで事業地域の再編が行われることとなったのである。また、大同電力は両社に配電することで関西地区から撤退し、中京地区における発電と各社への配電・送電事業に専念することとなった。


 こういった背景から日本電力は独自電源の開発が望まれていたこと、電力戦後も需要が拡大の一途であることを予見して関西財界に投資を呼びかけ黒部川開発に社運を賭けていたのだ。そして、電力戦による電力再編の結果、北陸・京都・滋賀・兵庫に地盤を構えることとなった日本電力は京神地区への送電を目的に北陸の有望な河川に水利権を手に入れていったのである。


 さて、黒部川水系開発に話を戻そう。


 彼ら日本電力は他の水系の水利権を得てはいたが、当面の投資を黒部川に集中していた。ダム建設と発電所の増設は並行して行われ、宇奈月温泉のすぐ上流にも宇奈月ダムの建設が34年には開始されていたのだ。


 そして、彼らは観光事業にも力を入れていた。黒部鉄道の宇奈月温泉まで大阪から直通の急行列車を鉄道省との交渉の上で走らせることに成功したのである。週末限定の臨時急行列車ではあるが、これによって関西地区からの観光客の誘致で宇奈月温泉への旅客誘導が可能となり、また直営のホテルや旅館に引き込むことで電源開発の原資にすることに成功していたのである。


 また工事専用鉄道路線である黒部峡谷鉄道を旅客化して黒部峡谷そのものを観光地化することで工事専用線からも運賃収入を得ようと画策してのである。無論、社員用の宿泊施設を改装の上で工事中に掘り当てた温泉を引き込むなどして秘境の宿という演出をしている。


 これらの副業はことごとくが成功したことで関西財界に日本電力の財務状態が安泰であると錯覚させていたが、どれもこれも日本電力が必死で行った偽装工作であった。財務状態はかなり火の車であったが、実態を誤魔化して投資を受けることでギリギリ黒字というところから安泰な黒字経営へと転換させる時間稼ぎを行っていたというのが日本電力の実情ではあった。


 もっとも勝算があったからこそのハッタリであった。日本電力の試算ではこれらの開発で30万kWの電源が確保出来、それによって電力安定供給出来ることによって得られる利益は相当なものになると確信があったのだ。


 また、アメリカのゼネラル・エレクトリック社が製造販売しているルームエアコンに早くから注目し、東京電気が輸入販売を画策していることを聞きつけると特約代理店契約を行い、優先的に販売権を得たのである。そう、これが日本電力の切り札であったのだ。


 高温多湿で夏場に過ごしにくい京都盆地や大阪湾岸でルームエアコンを売り捌くことで電気代が跳ね上がることを期待していたのである。

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