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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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サムライの魂

皇紀2583年(1923年)8月25日 ビキン


挿絵(By みてみん)


 荒木貞夫少将率いる第8旅団の鉄橋攻撃による誘因作戦によってビキン守備隊は事実上壊滅した。


 逃げ帰った極東共和国軍は支えきれないと我先にビキン前面の塹壕陣地を捨て渡し船に殺到した。ビキン市街地と対岸集落及び塹壕陣地の間を流れる川には橋がなく、ここを渡るには渡し船しか手段がないのだ。


 渡し船はいくつか存在したが、真っ先に乗り込んだ共和国軍将校たちはビキン市街地へ渡った後戻ってくることはなく、あとに残された下士官や兵は呆然として対岸で乗り捨てられた渡し船を眺めていた。


「敵が、敵が来た……俺たちはもう駄目だ……あの悪魔どもに殺される……」


 塹壕の監視所から来た兵士が桟橋に集まっていた兵士たちへポツリとこぼした。


「俺は……」


「俺は死にたくない……こんなところで死ぬなんて嫌だ……」


 兵士たちは完全に戦う意思を失っていた。そこに再び監視所から兵士がやってきた。


「白旗を掲げた一団が来た……恐らく敵の軍使だ……だが、ここには上級将校が誰一人いない……」


「アリスタルフ中佐、あなたがここでは最上位です……敵の軍使と会見を……どうせ、俺達にはもう逃げる手段がないんだ……中佐、我らの命を繋いでください……」


「中佐!」


 アリスタルフの部下や下士官たちは彼に縋りついた。


「わかった……無様に命乞いをしてでも諸君らの生命の保証を勝ち取れるように努力する……俺もこんなところで死ぬのは御免だ……」




 アリスタルフは麾下の兵たちに塹壕に板を敷かせ、日本の軍使を迎えた。


「小官は大日本帝国陸軍の小畑敏四郎中佐であります……貴軍の最上位指揮官との面会を求めます……」


「私は極東共和国軍アリスタルフ中佐です。生憎、我が軍の最上位指揮官は貴軍の攻撃によって戦死され、次席指揮官以下、高級将校は揃って戦線を離脱しましたゆえ、現在は私が残存兵力を掌握しております」


 アリスタルフはバツが悪そうに自軍の状況を簡潔に説明した。


「それは……気の毒なことです……アリスタルフ中佐、お察しでしょうが、我らの任務は貴軍への降伏勧告であります」


「そうですか……条件を呑んでいただければ、我々は即座に降伏致します……」


「条件? 失礼ですが、貴軍は既に戦意を失っており、継戦能力は喪失していると考えますが……」


「申し訳ない……条件というのは私の命と引き換えにここにいる将兵全ての生命の保証などハーグ陸戦法規他諸条約に従った扱いをしていただくことです……」


 小畑はその瞬間笑い出した。


「小畑中佐、何がおかしいのですか、失礼ではありませんか……まさか、条約を無視すると!?」


 アリスタルフは真面目に抗議した。


「……いや、失礼した。貴官を侮辱したり条約を蔑ろにする意図はありません……」


「では、何故、笑われたのですか?」


「我が皇軍は日露戦争や先の大戦において恥ずべきことを行っておりませんし、貴官もマツヤマをご存じでしょう? 我が皇軍は捕虜を国際法に基き取り扱います……小官が笑ったのは、貴官が日本の戦国時代の武将の様であったからで、侮辱する意図はなかったのです……異国にもサムライの魂を持つ者がいるのだなと……そう思ったのです」


「……サムライの魂……」


「ええ、ご安心ください……我らはサムライの魂を持つ者、誓って無碍には致しません……もちろん、それは貴官の生命も含めてです」


「……わかりました……降伏致します」


「決断、歓迎致します」


 二人は固く握手を交わした。

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