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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2594年(1934年)

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1934年時点でのソ連情勢

皇紀2594年(1934年) 1月1日 世界情勢


 北の赤い大地を支配するヨシフ・スターリンは五ヶ年計画、富農絶滅、対立する政敵の粛清と概ね史実に即した動きを見せている。


 その中でゲオルギー・ジューコフは別格であった。スターリンはジューコフを階級無視で極東方面の司令官に据えたが、ジューコフはそれに応え、着実に成果を示してきた。これによって33年年末には赤軍大将にまで昇進していた。だが、これは責任をすべて押しつけるという意味に他ならなかった。一つに失敗はそのままジューコフの生命を危険に晒すことと同義であったのだ。


 だが、彼は非常に優秀な士官であり、慎重かつ厳格な性格であった。これが幸いし、部下の些細なミスやモスクワ中央との折衝における不手際を未然に防ぎ、同時にその責任のすべてを相手に押しつけることに成功し粛清を逃れていたのだ。


「私はモスクワ中央が決定した兵力や資材でやりくりすることに異存はないが、私が必要と見積もった兵力と資材を提供せずにシベリアの失陥を招くことになった場合、その責任の所在は貴君らにあると明記して頂きたい。私は不要なモノを望んではいないし、日本と正統ロシア(革命への裏切り者)の兵力や動員力から考察すれば誰でも同じ答えに至ると考えて要望を出しているのだからね。そうそう、私は君たちを同志スターリンへ革命への裏切り者として突き出したくはないのだ……わかるね?」


 中央との折衝役が成果なくイルクーツクへ戻ってきた時、このような趣旨の手紙を託し、再び使者を送り出していた。


 彼の言をフルンゼ陸軍大学の教官役であった高級将校たちもまた保証し、同じ見解やこれでも過小であると結論づけていたこともあってジューコフの邪魔をする者は事実上いなくなっていたのだ。


「余は同志ジューコフを革命の闘士であると称えるに吝かではない。同志を除いてシベリアの地を守り抜ける者を知らぬ」


 スターリンもまたジューコフが粛清対象者を用いての革命精神の発露たるバイカル=アムール鉄道建設推進に大きく満足していたのだ。


「愛国者の血によって母なるロシアはより強靱となっている。これこそ革命精神の発露ではないだろうか」


 数年来の反体制派への粛清を文字通り正当化するためのものではあったが、国内の思想統一と国土の開発はソ連領内の支持率を引き上げる効果を持っていたのは間違いなく、政府系新聞であるイズベスチヤ、共産党機関誌であるプラウダにおいて盛んに取り上げられていた。


 特に積み上げられた鉄鉱石とトロッコを背景にスターリンが鉄製品を手に持ち力強く演説する写真、そして記録映画がソ連人民を鼓舞することとなったのだ。


 33年年末に至る頃にはオホーツク海に面するマガダンからヤクーツクまでの道路が建設されていた。これにはアメリカから輸入された重機を用い、またロシア・ウクライナなどから送られてきた元富農など粛清対象者が多く動員されていたのだ。


 道路の開通によってモスクワ-エカテリンブルグ-オムスク-クラスノヤルスク-ウスチタートまでのシベリア鉄道・バイカル=アムール鉄道、ウスチタート-ヤクーツクのレナ川航路、ヤクーツク-マガダンの道路による連絡が達成されたのである。


 この結果、モスクワとオホーツク海は結ばれたのだ。いくらか効率が悪い条件はあるものの国土の端から端までが一本の流通路で結ばれた効果は大きかった。これの意味するところは失った太平洋への出口を再び取り戻したというものだけにとどまらない。アメリカ西海岸との流通経路を切り開いたという事実である。


 不凍港の確保という点ではソ連の宿願こそかなえられてはいないが、その効果は絶大である。


「シベリア版援蒋ルートが誕生してしまった」


 有坂総一郎と東條英機はこの事実に気付くと衝撃の余り言葉を失った。限りはあるとは言えど、援蒋ルートの存在によって史実の大日本帝国がどれほど苦労をしたか理解していればその衝撃の度合いを理解出来るだろう。

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