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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2593年(1933年)

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スパイ容疑

皇紀2593年(1933年) 10月5日 アメリカ合衆国 ニューヨーク


 イーストリヴァーを眺める高層ビルにアリサカUSAはオフィスを構える。そのオフィスの主は苛立ちを見せつつも部下たちに指示を飛ばしていた。


「アリサカUSAにはスパイ容疑が掛けられており、疑いが晴れるまで閉鎖される。日本人スタッフは10月10日までに出国することを命ずる」


 アルテミス・フォン・バイエルラインは苛立ちを抑えるために爪を噛む。彼女の元にこの命令書が届いたのは今朝のことであった。


 実際にアリサカUSAの日本人スタッフの半分は元憲兵大尉甘粕正彦率いるA機関のスパイであり、その疑いは結果から見れば事実そのものであった。だが、彼女はその実態を知らないのである。故にこの不当な疑いに反発を覚えているのだ。


 A機関のスパイたちはアラスカ級戦闘巡洋艦の情報や新型戦艦の噂など広く情報収集を行い、映画人という肩書きを持つ甘粕が直接情報を受け取るためにニューヨークに出向き内地に持ち帰るというそれで大きく成果を上げていたのである。


 特に航空母艦レンジャーの建造が取りやめになったことは報告を受けた有坂総一郎にとって僥倖というものであった。レンジャーの建造が行われないことで続くヨークタウン級の建造の可能性はほぼ潰えたからである。


 無論、この情報は平賀譲造船中将を通じて海軍大臣大角岑生大将へと伝わったが、同様に大角もまた笑みを浮かべアメリカが大艦巨砲主義にのめり込んだと確信させ、建艦計画を前進させることにつながったのである。


 A機関のスパイたちの行動は大きな成果を出すこととなったが、実はアメリカ側がスパイ行為として嫌疑を掛けたのはそちらではなかったのであった。


 アメリカ側当局が疑ったのはアリサカUSAによる積極的な企業と技術特許の買収であったのだ。これによってアリサカUSAは大恐慌下のアメリカにおいて突出した利益を出し続けていた。そして、大企業の保有する本社ビルを次々と買収していったのである。


 まるで80年代の日本企業によるアメリカ侵攻と同じことをしているのだが、買収したビルのセキュリティ管理を理由に鍵の付け替えなどを行い、A機関のスパイたちが書類の盗撮盗み出しを行い、軍需産業の握る機密情報を得ていたのだ。だが、その行為そのものがバレていたわけでは無かった。


 アメリカ側当局はスパイ容疑という名の下にアリサカUSAを解体することが目的であり、企業買収や特許侵害によって不当な利益を得て、その利益と企業機密情報を持ち出したという嫌疑であったのだ。


「どうしてスパイ容疑なんて掛けられないといけないのよ」


 アルテミスは不機嫌そうに呟くが、呟くのも惜しいくらい時間が無い状態であったことから目と手は動き続けている。もっとも、苛立ち任せに爪を噛んでいたが。財産目録のチェックと作成はいくら有能な彼女であっても時間が掛かる。故に焦りが目立つ。


 アメリカ人スタッフが残るとは言っても残務処理は多く、また、アルテミス自身も日本人スタッフとともに10日には日本本社が傭船している日本郵船の貨客船に乗り込んで日本に向かうこともあって多忙を極めているのであった。


「報告を聞きたい。東京まで出向いてもらえるかな?」


 閉鎖命令が出てからすぐに日本本社に問い合わせをすると翌日に電報にはそう書いてあり、彼女は本社の指示に従うことになったのだ。


 普段、日本本社に問い合わせをするときはいつも「最善と思う判断をすれば良い」と返答が来るのだが、今回だけはいつもと違う反応であったことに彼女は首を傾げたが本社命令とあれば従うほかなく残された時間で書類仕事を進めていたのである。


 アメリカ当局にとって書類が多少杜撰であっても接収して売却してしまえば良いわけで、そこまできっちりしていなくても良いのではあるが、アルテミスは自分が築いた自分の城を取り戻す気でいた。そのためには書類に不備があってはいけないのだ。


 ようやく一段落したところで遅めの昼食をと思って席を立とうとした瞬間にアメリカ人スタッフから呼び止められ結局、アルテミスはその日昼食を取り損ねてしまうことになった。


 そして10日、彼女は船上の人となった。

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― 新着の感想 ―
[一言] おや、色々すれ違いが起きつつも、アリサカUSA終了のお知らせ。まぁA機関の行動のとばっちりに近いのだけども… しかし本作では、レイテ沖や坊ノ岬沖の逆バージョンを何倍もの規模にして行うことが確…
2021/01/04 10:37 退会済み
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