表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2593年(1933年)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

671/910

海軍省内改革

皇紀2593年(1933年) 9月27日 帝都東京 海軍省


 この日、海軍部内において行われていた改革が遂に実を結び軍令海第5号「軍令部令」が公布された。施行は10月1日とされ、「海軍軍令部」から「軍令部」、「海軍軍令部長」は「軍令部総長」と改称されることとなった。これは軍令部が海軍省と事実上対等の関係になったということであった。


 史実においては、海軍軍令部長に伏見宮博恭王が就任したことで艦隊派が海軍省からの横やりを躱すために独立性を確保しようと動き、海軍大臣である大角岑生に圧迫をかけたことで成立した背景がある。


 だが、この世界でも確かにそういった事情はいくらか見受けられたが、史実と異なり、海軍の主導権は大角が握っていたことから、海軍省の役割と軍令部の役割を明確化する意図であえて行ったのである。


 大角の意図は簡単にまとめると以下の通りであった。


 1,人事権、予算権、艦艇の設計建造、軍政に関する全般は海軍省管轄

 2,作戦立案、艦隊編制、軍令に関する全般は軍令部管轄

 3,戦時平時問わず、作戦・戦闘について海軍省と軍令部は情報共有を行う

 4,戦時における作戦行動は国家規模の戦略要素を鑑み、海軍省および政府の要望に軍令部は応えること


 史実とそれほどの違いが無いように見えるが、大きな違いが一つある。


 史実では、軍令と統帥権を盾に軍令部は海軍省に明確な作戦計画などを伝えておらず、政府機関として海軍省は政府にまともな軍事行動の報告を行っていない。つまり、政府が戦争について何も知らないという状態があった。


 無論、この欠陥を知り得ていた総理大臣東條英機は大本営政府連絡会議や陸軍大臣兼務によって断片的に情報収集を行っていた。だが、それも開戦当初の勝勢であれば問題なかったが、次第に戦局が悪化する中で軍部の行動を把握出来ないデメリットが東條を苦しめることになったのだ。


 そして世に言う東條幕府と言われる総理大臣・陸軍大臣・参謀総長の兼務に行き着いた。このとき、海軍大臣であった嶋田繁太郎も同様に軍令部総長を兼務している。


 大角はこのデメリットを知っていたことから報告義務を課すことにしたのである。そして軍令部に譲っても良い権限を与えることで表面上は海軍省が譲歩したという様に見せかけることで、枷を嵌めることとしたのであった。


 軍令部にとって大角の要望は受け入れられない部分でもあったが、統帥権を持ち出すなら人事権を発動して即刻予備役入りと大角が強気で交渉に臨んだこともありいくらかの権限委譲で手を打つこととなった。


 艦隊派は不満を抱きながらも大角に従う他に手は無かった。伏見宮(殿下)だけでなく東郷平八郎(神様)もまた大角に同意したことで抵抗する後ろ盾を失っていたからだ。


 だが、大角は艦隊派に厳しい態度だけで接しているわけでは無かった。大角の与党は艦隊派である以上、艦隊派が喜ぶ手土産を用意していたのである。


「本年末から超巡の建造を加速させる。故に海軍省としては兵学校や機関学校の拡充を行う。私は諸君らに我慢ばかり強いているわけではない。時が来たのだ。これからは建艦が続く。軍縮はもう終わりである」


 大角はこれまで慎重に建艦計画を進めてきた。予算を得ておきながらあえて建艦を見送り、造船所の拡充に充て、また兵学校や機関学校などの定員を絞らずにローテーションで乗り組みをさせて兵員の充足を図ってきたそれはすべて条約無効による大量建艦への布石であった。


 新造艦を建造する能力は十分に得ていた。海軍工廠も大分県大神に新設され、呉工廠造船船渠に相当する造船ドックを複数備えている。また、同様に民間造船所も史実の大和型を建造出来る規模の船台やドックをいくつも増設している。


 だが、いくら船を造れても、動かす人員が居なければ話にならない。


 しかし、八八艦隊建造のために拡充した海軍各教育機関はそのままの規模を維持し、毎年十分な数の士官や兵を輩出していたのである。無論、供給過剰気味であるが、民間船の大量就航ということもあり、航海学校代わりとなって人材を民間に送り込むことで調整していたのだ。


「列強の新型艦の超巡(条約破り)は概ね出揃った。後出しじゃんけんで我々は船を揃えていく」


 このとき、詳細は明示されなかったが10インチ砲12門搭載、2万5千トン規模の超巡を建造予定と海軍高官には伝えられた。一般には最上型と同様の艦を建造すると公表されていたが、それを大きく超える艦であったことから艦隊派の高官たちの表情は一気に緩んだのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ