ビキン攻略戦<2>
皇紀2583年8月25日 ビキン
午前2時頃にポクロフカへ上陸した第8旅団は午前3時にはビキン前面に到達した。これは事前に上陸偵察した斥候部隊が目印を残すことで侵攻ルートをわかりやすくしていたこともあり、概ね、斥候の情報通りに立案された時刻に展開することが出来たのである。
「よし、斥候を出せ! 事前偵察と同じ敵の配置か確認せよ」
旅団長荒木貞夫少将は麾下の第15連隊長、第16連隊長、それぞれの大隊長を集めた上で指示を出した。その後、各大隊から斥候が派遣され、周辺状況の報告が入ったのは午前4時前であった。
斥候の報告ではビキンの町を囲む様な塹壕陣が作られており、陣地の一部には機関銃座が配置されていることがわかった。極東共和国とパルチザンも馬鹿ではない。戦訓を取り入れて持久戦に持ち込む腹である様だ。
「敵もなかなかやるのぅ……。じゃが、このまま突撃などすれば蜂の巣じゃな……」
荒木は野戦地図と斥候の報告を照らし合わせるとある点に気付いた。
「敵はシベリア鉄道にまで塹壕陣地を延ばしてはおらぬのか?」
荒木の問いかけに参謀は報告を見直し、担当した斥候に確認を取ってきた。
「お待たせいたしました。旅団長のご指摘されました点を確認して参りましたが、やはり鉄道近辺には塹壕がないとのことです。ただ、仮称第一要塞線への補給のためビキン南方のレソビリノエへ列車が運行されていると事前偵察から判明しております」
「それで、鉄道には歩哨くらいは立っておるのだろう?」
「いえ、歩哨は見当たらなかったようです。代わりにいくつかの哨戒櫓が立っている様です」
荒木は参謀との会話で一つの考えが浮かんだ。
「のぅ、鉄橋を爆破出来ぬか?」
「旅団長……それほどの爆薬は我らは持っておりませぬ……夜戦奇襲をかけるために重武装は持っておりませんから……あるのは支援用の十一年式軽機関銃と十一年式曲射歩兵砲くらいなものです」
「ふむ……十一年式平射歩兵砲は持ってきておらんかったのぅ……」
「はい、代わりに十一年式曲射歩兵砲を定数の4門から8門にしています……ですので、歩兵砲2個中隊の分と歩兵砲6個小隊の分を合わせて28門があることになります」
「十分じゃな……いっちょやったるか」
参謀は荒木が考えがいまいち理解出来ない様子だった。
「察しが悪い奴だのぅ……敵が塹壕に引き籠っておるなら引きずり出せばよいだけじゃろうて……」
「では、鉄橋へ攻撃を加えて敵が急行したところを横撃するということですな!」
「あぁ、そうじゃ……では、準備を始めるが良い……出来るだけ派手に攻撃せよ……そうじゃな、歩兵砲6個小隊は旅団司令部直轄として温存しておこう……ノコノコ巣から出てきた露助どもに食わしてやる分も必要じゃろうて」
「はっ……では、その様に手配致します」
ビキン攻略戦はまだ始まってすらいないが長い一日になりそうである。
十一年式曲射歩兵砲の数が1個連隊分だったので、2個連隊(1個旅団)分に変更しました。




