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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2593年(1933年)

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廃両改元<2>

皇紀2593年(1933年) 6月22日 世界経済


 廃両改元による混乱は暫くの間、支那大陸全土で続くとみられているが、特に日英仏はこの影響で現地資産において大きな目減りになることは明白であった。


 英仏は現銀という担保によって融資や地域政権の財政基盤を保証していたこともあり、現銀のアメリカへの流出というそれによって担保そのものが目減り、もしくは消失するという状況に瀕していた。


 日英独仏伊による後ろ盾を得ていた北京北洋政府は南京国民政府のこの方針に異を唱えるとともに、勢力圏である北支の河北・河南・山東・山西の4省における銀元(南京元)への統合の拒否と交換禁止を命じたのである。


 元々、北支方面は日本円・英ポンド・仏フランの流通量が多いこともあり、米ドルの浸透が少ない地域であった。必然的に基軸通貨である英ポンドと従来の銀両が連動することになり、銀価格の下落はそのまま英ポンドの下落につながり、英ポンドと米ドルの為替相場における関係にも影響を与え始めていたのだ。この動きには日英独仏伊は世界的な金融不安を招きかねないとして危険視した。


 国際会議を開催し、世界経済をリードする列強間において利害調整を行おうと大英帝国は各国に打診を行う意志を固め、ロンドン駐在の各国大使に水面下で根回しを4月中旬の時点で始めていた。


 この動きに各国とも深い憂慮の元で緊密に情報交換を行い事態の打開へと歩みをともにすると結束を確認したが、ただアメリカだけがその打診に各国と異なる反応を示したのである。


「貴国や他の列強の懸念は理解するが、それほど大きな問題ではあるまい。直ちに影響を与えるとは思えない。しかし、通貨の安定、金融の不安の払拭は大恐慌という未曾有の災害を経た今では列強各国にとって共通の課題であると認識する」


 この言い草に大英帝国側はむっとしたがそれを露わにすることはなく、曖昧な笑みを浮かべてやり過ごしたという。世界恐慌を引き起こしておきながら居直るその姿勢に各国とも不快感を感じてはいたが欧州列強は何処も彼処も債務国……債権国であるアメリカに表立って文句をつけるのは躊躇われた。


 大英帝国は辛抱強く会議の重要性と必要性をアメリカ側に訴えると同時に大量の銀が急激に移動することは銀本位制国家のデフレ進行や市場の混乱を招き国際経済に悪影響を及びすと経済誌を通じて世界が置かれている現状を周知させることに腐心することになる。


 だが、その間にも南京国民政府は強制的に勢力圏における強制的な銀両の回収と銀元(南京元)への交換を進めていた。回収される銀が増えることで南京国民政府は財務基盤を固めていたが、その反面、市場に出回る通貨が不足するとともに信用の低い銀元(南京元)での取引を渋るということが続き、確実に南京国民政府の勢力圏は経済が低迷していったのである。


 この状況にアメリカ資本は苛立ちを見せ、支那市場への進出の割にメイクマネーが出来ないことに不満が出始めていたのだ。大英帝国主導の国際会議開催へ冷ややかな対応を見せていたアメリカ政府も国内財界からの突き上げには流石に折れるしかなく6月中旬に会議への参加を表明するに至った。


 結局、大英帝国の根回しの末、銀価格の安定を目的とした国際会議を8月にロンドンで開催することとなったが、参加国はいずれもが会議の行く末に明るい展望を見いだせていなかった。

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