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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2593年(1933年)

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ワイマール共和国崩壊

皇紀2593年(1933年) 3月24日 ドイツ国


 ドイツ=ワイマール共和国はこの日、終焉を迎えることとなった。


 史実と同じく、ヒトラー内閣の成立という流れの中で総選挙を前に帝国議会(ライヒスターク)が放火炎上し、その後の総選挙においては共産党や社民党の左翼勢力が衰退し保守勢力とファシズム勢力が議席を伸ばすという結果となった。


「我がドイツに必要なのは強力な指導者による民族の統率である。鉄の意志と血の団結によって苦難を撥ね除け、裏切り者と敵対者を葬り去ることなのだ!」


 首相アドルフ・ヒトラーは焼け落ちた帝国議会(ライヒスターク)を背にニュース映画を撮影させ、それをドイツ中の大都市で上映させ訴えかけた。これには映画配給会社や映画館などに働きかけと圧力が掛けられたことで実現したことであるが、わかりやすい行動指針と焼け落ちた帝国議会(ライヒスターク)は視聴者であり有権者であるドイツ国民に浸透するまでそう時間は掛からなかった。


 ヒトラーは32年の選挙以来、ことあるごとに全権委任を要求してきたこともあり、自身が政権を獲得したこと、帝国議会(ライヒスターク)が焼け落ちたこと、左翼勢力が事実上壊滅したことから全権委任法を満を持して提出しようとしていた。そして、彼はまたこの法案が通過することを確信していたのである。


 事実、「民族と国家の保護のための大統領令」「ドイツ民族への裏切りと反逆的策動に対する大統領令」という二つの緊急大統領令は彼が目論んだ通りに認められ、共産党員と共産党議員(敵対者)を葬り去る結果に繋がった。社民党が抵抗することはわかっていたが、中央党、国家人民党などと歩調を合わせさえすればなんのことはなく、目障りな社民党勢力さえも共産党勢力同様に根絶やしに出来ると踏んでいた。


 迎えた3月21日、ドイツ国家は炎上した帝国議会(ライヒスターク)の代わりにポツダムにあるフリードリヒ大王の墓所である衛戍教会において国会再開の記念式典が開催され、ヒトラーは力強い演説を行うと聴衆からの拍手喝采に自信を深めたのである。


 そして、24日。事前の閣議において根回しが行われ、閣僚全員の賛成と与党を構成する連立各党の党首たちに結束を約束させていたこともあり、ヒトラーは上機嫌でクロル・オペラハウスへ向かい、そこで行われる国会本会議において全権委任法の可決を迎えるはずだった。


 だが、このとき、彼のあずかり知らぬところで事態は進行していたのである。ヘルマン・ゲーリングとその側近、中央党、国家人民党は閣内外の一致という流れを作っておきながら、ちゃぶ台返しを画策していたのである。


 彼ら保守勢力にとって共産党勢力は排除すべき存在ではあったが、一党独裁体制など望むべきものではなく、強力な指導者は望んではいても、それはアドルフ・ヒトラーという個人ではなく、国家と民族の統合の象徴、伝統ある権威の下でのものであった。つまり、帝政復古こそ望んでいた。


 同床異夢でありながらも手法は同じくしていたこともあって閣議と閣内外協力では一致していたが、誰を主権者とするかの点で彼らは折り合うことはなかったのだ。折り合えないことがわかっている以上、決戦場は議会以外にはなかったのだ。


 元々が君主制を望む彼らにとって誰が敵で誰が味方かは明白であり、また、財界にとっても自由な経済活動が行える方が良いこともあってナチ党との関係は表面上の支持と違いそれなりに距離があった。これは主に窓口がゲーリングであったこともありナチ党最高幹部との関係の近さ故にナチ党本体との距離感を誤魔化す隠れ蓑となっていた。


 大砲王の名を受け継ぐクルップ社の総帥グスタフ・クルップもまた反ナチ党の色を鮮明にしつつあった。元々彼はナチ党の方針に極めて批判的態度を取っていたが、帝政復古派であるゲーリングがナチ党の金庫番であったこともあり、ゲーリングを通じてナチ党内に帝政復古派を一定数潜ませる工作を行っていたのだ。


 クルップ社からの政治資金という実弾はそのまま旧帝国軍人に流れ、ドイツ国防軍における影響力拡大にも繋がっていた。特にリヒトホーフェン大隊以来の人脈はこの機に活躍を見せ、戦友を支えるかのようにドイツ各地で水面下での動きを見せていたのである。


 ドイツ国防軍内においてのナチ党への接近はこの時点で限定的になっており、彼らの動きによってクーデターやテロに走る動きを見せるナチ党シンパは監視がついていたのである。


 ヒトラーが壇上において法案の趣旨説明を行った後、各党党首の意見表明が行われ、それに対する党首間での討論という形だけの議会政治劇の後、評決が行われた。


 結果は賛成票が272票、反対票が293票。ヒトラーの余裕の表情は反対多数で否決された瞬間凍り付いたのである。先程までの予定調和であるやりとりが見事に覆されたのだ。


「数え間違えておるのではないのか?」


 ヒトラーは再集計するように命じたが、その結果は変わることなく、一票の狂いなく彼の元に結果が届けられた。


「閣下、残念ですが、どうやら我々の法案は拙速であったようです。一党独裁というそれはどうやら受け入れがたいものであると言わざるを得ないでしょう」


「ゲーリング、君は何か知っておるようだな」


「我が党は一致しておりましたが、財界、国防軍、貴族、いずれをとっても反共で我が党を支持をしても、皇帝(カイザー)でないにも関わらず同様の権力を与えるという考えには賛同は得られなかったようです」


「くっ……」


 流石のヒトラーもこの事態にはすぐさまに反応を示すことは出来なかった。


「しかし、同時に提出した共産党の非合法化、共産党員の公職追放については圧倒的多数で可決出来ておりますから、目論見はおおよそ叶ったことになります。これで満足しておきましょう」


 ゲーリングの言葉はヒトラーには届いてはいなかった。ヒトラーの心中は反旗を翻したであろう連立与党への怒りで満たされていた。


 ともあれ、事実上、ワイマール共和国は崩壊し、新たなる政治体制へと移行を余儀なくされたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 史実通りワイマール共和国が崩れた一方で、ちょび髭終了のお知らせも間もなく。まぁ仕える相手がちょび髭から皇帝に変わっても、我らがルーデル閣下は上機嫌でソ連の機甲部隊を処しに行きそうだと思うなぁ…
2020/12/11 18:28 退会済み
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