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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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撫順から始まる利益共同体

皇紀2583年(1923年)8月23日 満州 撫順


 撫順……奉天からほど近い炭鉱都市。市街地南方に巨大な露天掘り鉱床が存在する。


 実はここ撫順が満州における石油開発の先駆けとなった土地でもある。撫順炭田は東西の二鉱区に分かれている。東西では炭質に違いがある。東西ともに瀝青炭を算出する最高ランクの炭田であるが、東部鉱区はコークスに最適のもの、西部鉱区は燃料用のものが多くを占めた。


 史実では昭和に入ると東部鉱区はオイルシェール専用、西部鉱区は石炭採掘とオイルシェール採掘の両方が行われ、昭和4年にオイルシェール精製の操業は開始された。昭和18年に至るとオイルシェール採掘が900万トン、粗油精製が36万トンに及ぶ。また、同時期には付帯事業として火力による発電が31万キロワットもあり、うち7万キロワットを用いてアルミ精錬を行うなど、撫順の鉱工業は活況を呈する。


 この時期はまだオイルシェールの利用が始まっていないが、ここに石油精製工場を作れば大きな国家利益を生むことは間違いないため、有坂総一郎は島安次郎と出光佐三に同行してもらい、満鉄資本で早期開発を促そうと考えていた。


「島さん、出光さん、ここに石油精製工場を作りたいと思います。ここで採れる油頁岩にはその名の通り、油分が含まれており、これを精製することで石油を合成することが出来ます……石油資源を持ちえない我が帝国にとっては死活問題であるのはお二方もご理解されていると思いますが、折角、ここにある資源を無駄にするのは勿体ないとは思いませんか? ぜひとも、協力をお願いしたいです」


 出光はすぐに反応を示した。


「有坂君。協力するのは吝かではないが、その石油精製には欧米列強の助力が必要だ。特に大規模であればあるほどな……我が出光商会と取引している日本石油もいくつかの製油所を持ってはいるものの、大規模なものとなると……」


「そうですよ。我が満鉄としても早々簡単に他社の参入を許すわけにはいきません……そもそも満鉄附属地は満鉄による排他的支配が行える場所……それを……」


 島は満鉄理事という立場からも難色を示した。


「では、聞き方を変えましょう。満鉄が石油事業会社を設立して、ここで精油を行う。そのための技術的資本的支援をするためにお二方に協力を求めたい……これではどうでしょう?」


 総一郎は満鉄の顔を立てることで島の賛同を引き出そうと提案した。


 すると島は難しい表情をしながら返答に悩みつつも頷いた。


「そういう事であれば、理事会の説得も可能でしょう……が、その精製された合成油はどう使うと有坂君は考えているんだい?」


「シェールオイルはその特性上、ガソリンには使えません。灯油やディーゼル燃料に転用することになりますね……」


 シェールオイルは原油の代わりとして何にでも使えるというわけではなく、ガソリンとして使える成分は少なく、中間留分であるケロシン、ジェット燃料、ディーゼル燃料などが取れるだけである。


 つまり、ここ撫順のオイルシェール開発を進めても、油不足に悩む帝国の未来は明るくないのだ。だが、戦略資源としての石油という使い道でなければ活用方法は見出せる。


「……ディーゼル燃料……」


 出光は真剣な表情で考え込んだ。


「有坂君、自動車の燃料はおおよそガソリンであるのが相場だが、これを仮にディーゼル燃料に置き換えて、車載発動機をディーゼル発動機へ変えたらどうだろうか?」


「いえ、それはあまりお勧めしません……ディーゼルは大型低速であるほどその長所が引き立ちます……例えば商船であるとか、あとは……戦車や貨物自動車であるとか……そういうものですね。あとは鉄道車両ですか……」


 そこに島が食いついて来た。


「欧州ではディーゼル機関を積んだ鉄道車両が走り始めているそうですな。なるほど、それならば、蒸気機関と異なり、水が要らない分運用コストを下げることも出来そうですね……特に満州の様な水の確保に苦労するような土地ではディーゼル機関は適合しているかもしれません……」


「しかし、我が帝国ではまだ採用例がないのでは?」


 出光は疑問を口にする。


「いえ、この手の先進国はドイツです。ドイツとつながりが深いのは陸軍ですから、陸軍を通してディーゼル機関の情報収集を進めたいと思います……これはお任せ下さい」


「陸軍御用達の有坂重工業ってわけか……商機に抜け目がないな」


「いえ、これも出光さんの言うところの国家の仕事をしているつもりで……というヤツですよ」


「これは一本取られたな」


 出光は機嫌良さそうに笑みを浮かべた。


「どうだい、島さん、有坂君の提案を満鉄で取り上げては?」


「……はぁ……そうですな……悪い話でもないですからな……しかし、出光さんはあまり利がないのでは?」


「いやいや、そうでもないさ。満州油田の話が実現した際には、内地向けで事業をさせていただくつもりだから、それまでに技術を含めた人的交流などで下地を作らせてもらうさ、満鉄にとって私と出光商会は赤の他人じゃないだろう?」


「なるほど、目先の利益ではなく、まさに国家の仕事ですな」


 島と出光は互いに頷きあうと総一郎に視線をやった。


 彼らの視線に応え、総一郎は頷き頭を下げた。


「お二人の協力に感謝します……」

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