ダンケルク級“中型”高速戦艦
皇紀2592年 12月24日 フランス ブレスト海軍工廠
この日、ノルマンディー級戦艦の建造以来沈黙していたフランス海軍による戦艦建造が再び始まった。その名をダンケルク級という。同型艦2隻の建造が予定され、1番艦はダンケルク、2番艦はストラスブールと命名されている。
ダンケルク級は史実においては実質的には巡洋戦艦という立ち位置に相当する扱いを受けていたが、その建造目的は2つあった。ドイツのポケット戦艦への対抗という意味合い、続く次期主力戦艦の実験という意味合いである。
だが、この世界では古鷹型重巡洋艦やポケット戦艦は建造されることなく、大英帝国海軍が発祥となる比類なき屈強な巡洋艦、通称超巡が誕生したことで明らかに海軍史は史実と異なる歩みを始めていた。
これによって史実以上の脅威がフランス海軍を悩ませることになったのである。一応の同盟国である大英帝国の超巡、仮想敵国であるドイツの襲撃艦……そしてイタリアの新世代戦艦と日本から譲渡される伊勢型戦艦。
これらはフランスにとって四面楚歌とも言える状態であった。アフリカに植民地を持ち、地中海世界にも影響力を有するフランスにとって、大西洋を跋扈するであろう超巡、襲撃艦、地中海で牙を剥くイタリア戦艦群に対抗するには何が何でもこれらに対応可能かつ高速で有力な戦艦が必要であったのだ。
フランス海軍においても超巡規格のそれを建造しようという話はいくつか俎上に上ったが、それらはいずれも決定打となるものではなかった。例えばイタリアへの対応として33cm主砲搭載の1万5千トン級の海防戦艦という選択肢が提案されたが、21ノットという低速力、航続1000海里という限られた性能ではフランス海軍が求める通商保護というそれに対応していなかった。
かつてフランス海軍は海防戦艦を運用していたが19世紀末や日露戦争前のそれであり、ワシントン軍縮条約でいずれも廃艦となっていた。
地中海という内海での運用ということに特化すれば非常にローコストで申し分ない攻撃力を装備可能な海防戦艦というそれはフランス海軍にとっては十分に選択肢になり得ていたが、そもそも小型の艦体に過剰な武装を積んでいることもあって機関や燃料には制限がつく。いや、それを犠牲にして過剰装備を積んでいるというべきものだけに拡張性がない。事実上の移動砲台であって、それ以上のことを望むのが間違いと言うべきものなのである。
海防戦艦であれば条約に縛られずに建造は可能であっただろうが、それは一種の条約破りの誹りを受けかねないものでもあり、それを甘受する気は誇り高いフランス人たちには出来ない相談だった。
そうなると残る手段は他の列強の様に16インチ砲や15インチ砲という大口径に拘らず、ある程度妥協し12~13インチ程度と抑え気味にし、装甲区画の短縮による軽量化で一定程度抑えつつも重装甲を目指し、その分浮いた重量で高速な戦艦を造ろうと考えたのである。
ダンケルク級中型高速戦艦 主要要目
1番艦:ダンケルク
2番艦:ストラスブール
全長:215.5m
全幅:31.1m
主砲:Model1931 52口径33cm砲 4連装 2基
副砲:Model1932 45口径13cm速射砲 連装 2基
副砲:Model1932 45口径13cm速射砲 4連装 3基
対空砲:Model1933 60口径37mm機関砲 連装 10基
舷側装甲:125~280mm
甲板装甲:115~140mm
主砲塔装甲:130~350mm
機関出力:13万馬力
機関:インドル式重油専焼缶6基
ラテュ式ギヤード・タービン4基4軸推進
最大速力:30ノット
航続距離:10ノット/10500海里
15ノット/7500海里
31ノット/3600海里
結果、出来上がった仕様は史実ダンケルク級と同じになったのは偶然ではあったが、それは経緯が違うだけで望んだ能力が同じであったことによるものであったというべきだろう。
史実ではダンケルクとストラスブールでは若干の性能が違う部分があったが、この世界でのダンケルク級は両者とも同一性能であり違いはない。
なお、就役しているノルマンディー級よりも中型を名乗るダンケルク級の方がより大きく、フランス海軍が建造した艦では最大である。とは言っても、日英米のそれらと比べれば比較的小ぶりではある。
機関配置はフランス戦艦伝統の缶室分離配置を本級から更に進歩させて缶室と機械室が交互に配置されるシフト配置を採用することで生存性を増す工夫をしている。また、ディーゼル発電機3基があり、主機関室のタービン発電機を補っている。総発電量5000kwと破格である。
周辺の情勢が著しく急速な軍拡に傾いていることもあり、進水まで2年、艤装完了まで1年を見積もり35年年末に竣工を予定している。




