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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2592年(1932年)

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生け贄を捧げる儀式

皇紀2592年(1932年) 9月15日 アメリカ合衆国 ニューヨーク


 ニューヨーク駐在のA機関の密偵はニューヨークにオフィスを構えるアメリカ企業にロシア系のビジネスマンの出入りが増えていることに気付き、可能な限りの追跡調査を実施していた。


 その結果、亡命ロシア人を装ったソヴィエト連邦の使節であることが判明する。


 共和党政権はソ連との国交を有していないため、表向きは亡命ロシア人というそれでの入国であったと思われ、活動拠点はニューヨークのど真ん中であるマンハッタンに構えられていた。


「堂々とし過ぎて逆に疑いの目が向かない」


 と調査に当たっていた密偵は述懐するほど彼らの活動は目立たせないという常識の裏をかいていたという。だが、その全貌をつかむことはA機関の密偵たちとは言えど難しい。


 彼らは亡命ロシア人の実業家・貿易商社という肩書きで活動し、アメリカ企業から各種工業製品、工業機械の取引を行っていたのだ。その送付先はポーランドもしくはチェコスロヴァキアとなっていたのである。


 金持ちの亡命ロシア人が伝手のあるポーランドなどの企業へ輸出入の仲介をしているという体裁であったが、送られている品目を注視すると危機感を抱くことにならざるを得ない。


 石油採掘用のプラント一式、航空機用のエンジン、蒸気機関車の設計図、工作機械……まさにソ連が必要とするものがその多くを占めていた。


 ソ連は経済相互援助会議(コメコン)の結成で実質的に不凍港を手に入れることに成功し、ポーランドが整備していたグディニアからワルシャワ・ミンスクを経てモスクワへ鉄路で結ばれることとなったのだ。


 特に、ソ連運輸通信人民委員部(国鉄)経済相互援助会議(コメコン)の結成とともにポーランド国内で三線軌条化を推し進め、あっという間にグディニア~ワルシャワ~ミンスク間のロシア標準軌での直通運転を可能にしてしまったのだ。


 これは明確にポーランドのソ連経済圏への組み込みを狙ったものであるとともに、列強の対ソ封じ込めを突破するための手段でもあった。


 表向きポーランドは列強に睨まれているものの経済封鎖まではされておらず、精々が英独による重点品目輸出規制程度であり、故にアメリカがポーランド向けに輸出を行うことは何ら規制の外であった。


 また、アメリカ企業がソ連へ投資すること自体はいかに共和党政権がソ連を承認していないとは言っても自由に行えるため度を超えない限りは制限を課されることはない。


 だが、フーバー大統領はソ連へ傾きつつある経済界には掣肘せざるを得ず、英独がポーランドへ行っている水準での対ソ貿易の制限を実施していたのだ。


 そのため、ソ連と癒着を深める一部の企業は迂回輸出を企み、ポーランドへの輸出というそれで対抗し始めたのだ。ポーランドへ陸揚げされてしまえば後はポーランドの国内問題であるが故にどうなろうがアメリカ企業は責任を負う必要はなく、ただ利益を得るだけなのだ。


 こういった事情もあり、ソ連はポーランド国内に直接乗り入れできる路線形成を、ポーランドは関税収入を得るため、アメリカ企業は利益を得るため、それぞれの思惑で動き始めたのである。


 そして、その目論見が概ね軌道に乗った時期にA機関がその尻尾をつかんだのであった。だが、彼らもまさかそういう国際的陰謀があるとまでは気付くことはなかった。


 深く静かに米ソは依存を深めていく。いや、利用できるだけ利用しようというお互いの打算というべきだろうか……その先にあるのは悪魔や魔王へ生け贄を捧げる儀式と言うべきものであると有坂総一郎と有坂結奈は評しただろうが、彼らもまたその動きに察知することはまだないのであった。

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