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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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東より光は来たる

皇紀2583年(1923年)8月22日 満鉄本線 大連-奉天間


 満鉄の特別列車は早くも大石橋駅を過ぎ、鞍山駅に差し掛かる。


 ここ鞍山は満州最大の製鉄工場である鞍山製鉄所がある。史実では関東軍が満鉄の影響力を嫌い、日産コンツェルンを呼び込み、満鉄系列から分離させ満州重工業の系列にした昭和製鋼所である。


 今はまだ満鉄による経営下で、鉄鉱石の品質や技術的な問題によって採算が悪い状態であるが、建設中の2号高炉の完成によって操業コストの低減による採算性の向上が見込まれている。史実でも、1926年の2号高炉操業開始、30年の3号高炉操業開始で内地の八幡製鉄所と同等の水準の製鉄が可能となる。


 鞍山が製鉄産業の中核都市となっているのは理由がある。鞍山には鉄鉱石鉱山があり、北方の奉天近郊にある撫順には炭鉱があることから、所謂地産地消が可能という立地条件によるものだ。


 史実における40年代では鞍山鉄山からの産鉄量を上回る製鉄量に至り、鞍山地区からの鉄を製鉄して出荷するビジネスから満州とその周辺の鉄を製鉄して出荷するビジネスへと変貌している。


 車窓には撫順から来た鞍山行きの石炭輸送列車のホッパー車が連なっているのが見える。どのホッパー車にも目一杯に石炭が積まれており、遠くには運ばれてきた石炭がうず高く積み上げられているのが見える。


「島さん、満州という土地は本当に内地とは尺度が違いますねぇ……これほど広大な土地は内地には……北海道でさえないのではないでしょうか?」


 車窓を眺めていた有坂総一郎は島安次郎に感想を述べた。


「そうですねぇ、私も初めて見た時はそう思いましたが、今はもう見慣れてしまって……逆に内地が狭苦しく思えますよ……」


 鉄道省のしがらみから解き放たれ満州の地に辿り着いた島の言葉は重かった。


「その狭苦しい内地をもっと狭くする秘密兵器がこれではないですか?」


「元はと言えば、有坂君、君が持ち掛けてきた話だろうに……まぁ、政友会の馬鹿どもを見返すつもりで設計したのだが……少し気合が入り過ぎてしまったようだよ」


 島は笑いながらそう言うと総一郎と出光佐三の二人を見て表情を引き締めた。


「しかし、この機関車の性能を発揮させるため、そして量産させるためには規格統一された部品が必要で、その部品の製造には一定水準の工作精度を担保出来る工作機械が必要です……そして、今後は車両製造の全てで規格化された共通部品による互換性の確保を行い、整備性を向上させることが大事だと考えています……それらを内地の車両製造企業、鉄道省の各工場、機関区などにも適用させていくためには、まず、この満鉄が先頭に立って見本を見せなければならないと思っております……そこで、有坂君には、特に協力をお願いしたい……」


 島の申し出はこの時代の日本では全くと言って良い程確立されていなかったものであり、総一郎にとってはありがたい申し出だった。


 一点ものだらけ、現物ありあわせ、職人技によるすり合わせが必要な工業品という名の工芸品が日本国内では大手を振っているという工業国にあってはならない異常なことが日常という有様が列強の一員を自称する大日本帝国の内情であった。


「ネジ一本ですら共通規格がないという状況では品質を一定にすることは出来ませんからね……今までは10両、20両、多くても100両……それなら何とかなる範囲内でしょうが、これからは一つの機関車が1000両、2000両と大所帯になります……そうなればネジ一本が命取りになりますからね」


「ええ、そうです。どこそこの会社のネジでないと駄目……では整備不良が続出するだけですから……」


 島は深刻そうにそう言うと出光を見る。


「確かに、満鉄向けに出荷している車軸油もうちしか取り扱いがないというのでは困るね……うちが儲かろうが、御客が困るんじゃ結果的にうちも困ることになる……」


「そういうことです……同じ業界であれば同じものがどこでも手に入る……そしてお互いに切磋琢磨する……そういう状態でないと工業力、国力と言うのは駄目なんですよ……」


「確かにそうだね……なるほど、個人の感情ではなく私たちの仕事は国家の仕事だという意識を持つということだね、その見地から仕事を進めていかなくてはいかんね」


「出光さん、それ、いい言葉ですね……個人の感情ではなく、国家の仕事という意識で仕事をする……か……」


 島はうんうんと頷く。


 総一郎は出光の言葉をかみしめながら車窓を眺めた……遠くに大ドームが見えた。奉天駅だ。


 列車は奉天駅構内にすべりこんだ。

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