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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2592年(1932年)

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帰って来た戦車男<3>

皇紀2592年(1932年) 8月15日 大阪市


「陸軍省としては九二式重装甲車の開発が終わったばかりで更に同様の車種を造るのは反対であるが、参謀本部側の要望にも耳を傾けないといけないとは思っている。だが、そうすると九二式重装甲車の改良も進まなくなる……知っての通り、馬匹の問題は焦眉の急である。我が国の輓馬は列強に比べ貧弱であり、駄馬輸送が主である……そうなると出来得る限り必要な馬匹を減らしつつ、輜重兵の負担が減る様にならないかと考えている」


 陸軍省からの出席者は皆揃って憂鬱そうな表情であった。


「先の宇垣軍縮で馬匹6000頭の削減が行われて、代わりに自動貨車の導入が進んだが、その代わりに燃料費が増大しており、出来得るならば燃料の統合も考えて欲しいのだ……無理を言えば、満州油田で手に入る軽油で賄えたなら尚良い……これは技術本部からの資料だが、軽油を使うディーゼル発動機の方が燃費が良くなるというではないか……発動機をディーゼル化出来るのであれば、多少製造単価が上がったとしても燃料費が抑えられることで了としたい」


 続いて別の担当官が懐事情からディーゼル化の要望を出してきたのであった。現状、陸軍の使う車両は全てガソリンエンジンを使っていることからガソリンの消費拡大とアメリカ産ガソリンの高騰という状況で陸軍省の会計官たちが悲鳴を上げてのたうっていたからだ。


「現状、ディーゼル発動機では100馬力程度であり、何にでも活用できる状況にはない。幸い、三菱がザウラーと提携して新型発動機の開発中であるそうだが、それだと200馬力程度だと聞く。実際は工作精度などを考えると実働150馬力程度だと聞いたが、東條君どうかね?」


 会議を黙って聞いていた参謀総長である閑院宮載仁親王元帥大将が東條英機少将に尋ねる。本来、親王はこの会議に出る必要も理由もなかったのであるが、たまたま関西方面の視察に赴いていたところ、新兵器である戦車開発の会議に興味を持って参加したのである。


「現状では研究段階であり、すぐに活用できる段階ではありません。ただ、ディーゼル発動機の技術開発を三菱を中心に結集させることで、標準仕様の発動機開発を推進するということで手堅い発動機を開発出来るのではないかと考えております……自動車工業などと競合させるよりも効果的ではないかと考えておりますが如何でありましょうか」


「よかろう、発動機に関しては早急に手を打たねばならんことは陸軍省が指摘する通りだろう。それに原君もそれが故に選択と集中といったのであろう? ならば、これも選択と集中というものだ。東條君は技術本部とともに軍需企業の説得と組合の組織化をせよ。原君はそれで満足か?」


 東條の提案に満足そうに頷くと原に視線を向けると原が頷くの見て親王は再び瞳を閉じた。静かに会議の推移を見守るようであった。


「閣下の配慮がありました故、陸軍省側の懸念は解決に向かうことでありましょう」


 原はそう言うと藁半紙に大雑把なロードマップを示した。


「本年から概ね2ヶ年で新型車両の開発を進める方向とします。1つは戦車、もう一つは牽引車。牽引車はシャーシを流用することで各種工作車両へと転用出来る様に考慮し、民生用に転用することで開発費用や製造費用をここから補填出来る様にすれば陸軍省としても出費に対して補填が出来ると思いますが如何?」


 原が陸軍省の担当官たち、とくに会計担当官に同意を求めるように視線を向ける。彼らは概ね同意の様子であった。


「昨今、機動砲の開発が進んでおりますが、それらを迅速に展開するためには牽引車両の開発をすべきでしょうからこれは全陸軍、兵科の壁を超えた一大プロジェクトとなりますゆえ、各兵科の意見も併せて必要となります……欲張りはいけませんが、国力に限りがある我が帝国では大は小を兼ねるを実践せざるを得ません、極力あれもこれもと開発が乱立しないように統合整備のもとで開発を進める所存……関係各位へ通達を願います」


 原は一番文句が出やすい陸軍省と参謀本部を懐柔し、陸軍でも影響力の大きい親王を味方につけたことで開発の主導権を握ったのであった。

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