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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2592年(1932年)

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ドイツ総選挙

皇紀2592年(1932年) 8月2日 ドイツ=ワイマール共和国


 盛り上がりに欠けるロサンゼルスオリンピックの最中、ドイツ=ワイマール共和国では総選挙が行われていた。


 7月31日に投開票が行われたドイツ国会選挙において国家社会主義ドイツ労働者党が躍進、第一党に選出された。この年は地方選挙においてもバイエルン州を除く全ての州議会で第一党となったこともあり、その勢いのまま国会選挙を迎え圧勝したのである。


 ナチ党は密約によってフランツ・フォン・パーペンと協力していたこともあり、選挙前に成立したパーペン政権を表立って批判することも出来なかったことから、政権批判・与党批判という従来の選挙戦術ではなく、ワイマール体制そのものを批判するという方向に舵を取ったのである。


 宣伝全国指導者ヨーゼフ・ゲッベルスは選挙戦において徹底してワイマール体制への審判を訴えたことで政権批判と同じ効果を得ることに成功した。


「この国会選挙ではパーペン内閣の政策ではなく、1918年11月の犯罪の責任を問い、さらにその時から今日まで現体制を存続させ、今世紀最大の歴史的崩壊の責任を負わねばならない政府や政党の行動について審判が下されるであろう」


「そもそも、ドイツ革命という名の背後の一突きで我がドイツは屈辱の歴史を歩むことになった、その歴史を追認しても良いのだろうか? いや、その様なことは断じてない!」


 選挙公報と党首アドルフ・ヒトラーの巧みな演説と聴衆を興奮させるゲッベルスの演出によって選挙民たちは熱病に魘されたようにヒトラーの名を叫び、反ワイマール体制を訴える様になったのである。


 ゲッベルスは誘導されていく世論が次第にパーペン政権そのものへの不満と批判に転化していくことそのものを敢えて無視し、そしてヒトラーも演説において直接的なパーペン政権批判を一切しなかったのだが、その言葉の端々にパーペン政権をワイマール体制の一味と認識させるような含みを持たせた。


「世界恐慌によって我々は塗炭の苦しみを甘受している。それもフランスの度重なる内政干渉やルール占領、賠償支払い要求で苦しみは深まっている! それに敢然と立ち向かわないのもまたワイマール体制による罪なのだ!」


 フランスに苦しめられているという実態とそれを見て見ぬふりをしていると訴えることで、ワイマール体制とパーペン政権を売国奴や裏切り者であると錯覚させることで更なる熱狂を演出したことによってナチ党の党勢拡大はパーペン内閣の想像以上のものとなっていた。


 パーペンも自身とその政権に批判の矛先が来ないように水面下でナチ党へ打診をするが、ゲッベルスはそれに対してパーペン政権批判を行っていないと一蹴し事実上秘密協定の破棄を行ったのだ。


 元々パーペン政権側と政治的主張は大差の無いナチ党が対立構図にあるという状態に貴族や財界は困惑を隠せなかったが、明確なワイマール体制への批判をしている点において心情はナチ党に傾かざるを得なかった。彼らもまた本質的には帝政による利益を得ている側だったからだ。


 ゲッベルスは選挙戦後半においては各地で映画上映を頻繁に行い、徹底して”背後の一突き”を印象付けることで共和主義者や共産主義者、ユダヤ人への反感を増幅させ、そこにワイマール体制という利得者がドイツを苦しめていると訴える内容を繰り返し主張した。


 視覚的、感情的な面で選挙民の心を満たすことに成功したナチ党が選挙結果で第一党に躍進したのは道理というモノであった。


 最終的に608議席中、ナチ党は230議席を得たことで最大勢力となり、他の保守派、中道派、右派などとの連携によって多数派を確保出来たのだ。また、中央党とバイエルン人民党はパーペン政権批判によって支持を伸ばし議席を増やすことに成功していた。没落傾向にあったブルジョワ諸政党からナチ党は中産階級の浮動票をうまく吸い上げたことで彼らの失った議席をそのまま獲得したことになる。


「次は首相の座だ……」


 ヒトラーは選挙結果に満足することなく次の野望に焦点を合わせていたのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりご存じちょび髭率いるナチス党が順調に議席確保したか…しかも共産党に濡れ衣着せる必要もないレベルの快進撃… でもそろそろちょび髭の行動を阻害するファクターが出てきそうな予感が…
2020/08/12 17:53 退会済み
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