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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2592年(1932年)

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5.15事件<1>

皇紀2592年(1932年) 5月15日 帝都東京


 この日、帝都を震撼させる事件が起きた。


 海軍将校と右翼活動家が結託、あろうことか総理官邸、有坂家市ヶ谷本邸他数か所を襲撃したのである。


 襲撃に参加した海軍将校は陸軍将校とともに閣僚を中心に財界人をテロ攻撃を同時多発的に仕掛けようと画策していたのだが、陸軍将校が実行開始前に日和ったことで右翼活動家とともに行動を起こしたのであった。


 彼らの目標は第一に総理大臣である高橋是清の命であった。次に立憲大政会の閣僚や幹部を標的とするため、連休明けの会合がもたれる15日に行動を起こすことに決めていた。一度に始末することで君側の奸を排除し、昭和維新を成し遂げようと彼らは画策していたのである。


 また、長らく海軍大臣の地位にとどまり、今や大角幕府と言われるほどに海軍の隅々まで掌握していた大角岑生大将を失脚させることを海軍将校たちは狙っていた。彼らはいずれも航空主兵派に属し、大角体制によって冷や飯を食わされていたのだ。


 史実以上に艦隊派が幅を利かせている帝国海軍において航空主兵を唱える勢力にとっては大角以外にも第二艦隊司令長官に着任している末次信正中将や艦隊派の領袖と目される加藤寛治大将もまた敵であり、彼らは自然と山本五十六少将などの元に集まっていたのである。


 30年に山本が航空本部技術部長に就任して以来、彼らの主張は先鋭化しつつあった。しかし、海軍行政の総元締である大角は山本の上げてくる要求を尽く握り潰すことで更に対立が激化してきたのだ。


 尤も、大角が山本の要求を握り潰したのは感情的理由ではなく、技術部長という職責にありながら精神的なことや抽象論が多く議論の俎上にすら載せることが出来なかったからだが、相当に恨まれているのは間違いなかった。無論、航空畑の海軍将校の中でも山本の要求が無茶苦茶だと看做して「航空の素人」と批判しているものも多く居たが、人柄なども相まって表立って異を唱える者は少なかったのである。


 山本に感化された海軍航空将校らが「奸臣大角を討て」とばかりに気勢を上げたことがある意味では原因であったと言えるだろう。ただ、それだけであれば海軍内の権力闘争で済む話だが、それで済むほど簡単な話ではなかった。


 井上日召が主催する血盟団と彼ら海軍航空将校が接点を持つのは自然な流れであった。霞ケ浦海軍飛行学生であった彼らは霞ケ浦飛行場からほど近い大洗をアジトとする井上ら血盟団の集会に幾度となく参加し、井上の思想に感化されていった。


 井上はテロリズムによる性急な国家改造計画を企て民間が政治経済界の指導者を暗殺し、行動を開始すれば続いて海軍内部の同調者がクーデター決行に踏み切り、天皇中心主義にもとづく国家革新を為せるという構想を説き、それに海軍航空将校らが同調したのであった。


 ここに海軍非主流派の過激分子と右翼テロ組織が融合してしまったのである。だが、それだけでなく、彼らは仲間を求め、同様に不満を燻らせていたアジア主義者たちに接近したのである。いや、アジア主義者たちも同様に接近を試みたというべきだろうか?


 アジア主義とは欧米列強の脅威の排除とアジアとの連帯を目指す主張をしているものである。史実においてアジア主義者たちの周旋は大きく大日本帝国の運命を左右することになるが、その最たるものが頭山満と彼が主催する玄洋社、政治家の犬養毅、広田弘毅などである。そして、大川周明であった。特に大川は史実において2・26の首謀者とされる北一輝とも親交を持ち、影響を与えあっていた。無論言うまでもなく史実の血盟団事件や5・15事件においても大川の存在は無視出来ないものであった。


 彼らアジア主義者は活動家だけでなく、政治家、軍人にも幅広くその主張を受け入れられていたこともあって浸透している思想の一つであったことは間違いないだろう。報道関係でも中野正剛や緒方竹虎などが有名だろう。


 史実日本は彼らアジア主義者の主義主張思想に引きずられていたことは間違いなく、それが破滅を引き寄せた要因の一つであると言えるだろう。


 そのアジア主義者と接近したことでテロ組織血盟団は人脈と資金源を得ることに成功したのである。海軍過激派・血盟団・アジア主義者……これらの融合は国内に不穏な空気を漂わせるには十分な出来事だった。

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[一言] だるまさんが226じゃなくて515で襲われてるw
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