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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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テツの遺伝子

皇紀2583年(1923年)8月21日 関東州 大連


「有坂さん、奥方も長旅ご苦労様でした……慣れぬ船旅にお疲れになりませんでしたか?」


 島安次郎が滞在中の大連ヤマトホテルを訪ねてきたのである。


 元々は島の呼び出しによって大連に訪れた有坂夫妻だが、呼び出した当の本人が多忙を極め大連に到着してから2日ほど待たされたのである。


「島さん、御無沙汰しております……私は疲れてはおりませんが、妻が身重でして……」


「そうですか、それはそれは……祝福申し上げるべきなのか、申し訳ないと言うべきなのか……」


 島は結奈の少し大きくなったお腹を見てなんとも言えない表情をした。


「いえ、お気になさらず……私は奥の部屋で休んでおりますので……」


 結奈も恐縮した表情の島へ配慮して寝室へ引っ込んだ。


 島は結奈に頭を下げ見送り、総一郎は結奈が寝室へ入るのを確認してから島へ着席を促した。


「さて、島さん……電報には詳しい内容がなかったのですが、例の機関車が完成しましたか?」


 島はニヤッとして言った。


「ええ、その通りです。設計に少しばかり手こずりましたが……つい先日、沙河口工場で完成しました。ここ数日多忙でしたのはそれに関係してのことで、お呼びだてしておきながら申し訳ない」


「いえ、大変結構なことじゃないですか……それで、性能のほどは?」


「ふふふ……聞いて驚かないでくださいよ。試験走行時の最高速度153kmを記録しました。これであれば、120km運転は容易でしょう……また、線形改良などすればもう少し伸びるかもしれませんね」


 史実におけるパシナ形が営業速度120km、最高速度150kmとも170kmとも言われている。


 島は図面を見せ、得意満面で説明を続けているが、10年も早くこの性能に達したのには理由がある。


 車軸各軸受にローラーベアリングを本格的採用し保守を容易にし、自動給炭機の装備などで機関士などの労働環境を改善している。つまり、史実におけるパシナ形よりもさらに先進的になり、パシハ形と同水準にしたものであったのだ。


「しかし、2000mm動輪とはさすがにデカい代物ですね。これならば、150kmというのは納得です……」


「ですが、新機軸を一通り導入したので……不具合が暫くは色々と見つかると思われます……まぁ、それを一つ一つ潰すことで量産化につなげるのが我々の仕事ですがね」


 島は豪快に笑う。余程機嫌が良いらしい。


「これが内地でも走るようになれば帝都-大阪間が10時間から6時間程度に短縮出来ます。そうなれば、内地の物流、経済は大きく成長しますよ」


「いやいや、有坂さん……あなたは東海道本線を改軌することが目的の様ですが……折角の新型機関車だ……より高速で走れる新線を作って走らせる方が、この機関車の性能を十分に発揮出来るというもの……そして、いずれは電化して更なる高速化を……」


「それは……」


「いえ、あくまで構想ですよ。うちの息子がそんなことを言っていたので……感化されたようです」


 総一郎の背中を汗が流れた。


 総一郎の様子に気付かなかった島は続けて言う。


「しかし、確かにこれからは蒸気機関車ではなく、電気機関車や電車の時代になるでしょうね……実際に、加減速が容易なのはモーター制御であるのは確かですから……そう考えると、満鉄も電化を考えるべきかもしれません……」


「今……息子さんはどちらに?」


「今は東京帝大の工学部におりますが、どうも親に似すぎたらしい……アレも生粋のテツですよ……帝都に戻られましたら、アレのことを目にかけてやってください、きっとお役に立つことでしょう」


 島はそう言うと再び機関車の話に戻った。総一郎も彼の話を聞きつつ、メモを取っていった。

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