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商工省の狙い

皇紀2592年(1932年) 3月18日 帝都東京


 商工省の新進気鋭の若手官僚たちは満面の笑みを浮かべ重要産業統制法の成立に万歳三唱を行っていた。そのリーダー格である岸信介は同僚たちが沸きに沸いている中で一人冷静さを失わずにいた。


 彼にとってこの法案は通過点に過ぎない。本丸は産業界の商工省による統制である。あくまで、重要産業統制法は統制会社を介した間接統制であり、政府・官僚の望んだとおりに右向け右、左向け左と旗振り出来るわけではない。


――今の帝国の実力では合衆国どころか大英帝国やドイツにすら及ばない。イタリアやフランス相手ならば十分に伍するだろうが、所詮は仏伊は二流列強だ。そんな連中と同等では話にならない。


 岸は自国の国力を過信することはなく、概ね適切な分析を行っていた。それゆえに満州を抑えた今ですら二流列強程度の国力でしかない自国のそれに不満を抱いていた。


――有坂コンツェルンという異分子が産業界に与えている影響は無視出来ない。急速な工業化、大規模工場化、生産の自動化、機械化は有坂コンツェルンによってなし得ている部分があるが、所詮は有坂総一郎が旗振り役として存在していることで成り立っているに過ぎない。奴の財閥がこけたらその時点で屋台骨が崩れる……そんなことになってはならんのだ。


 技術や先端製品が集中し過ぎている故に有坂コンツェルン以外の商工省の影響力が強い企業を育て、その企業を日本の中心企業へと成長させる。そして合衆国へ対抗する力を蓄えることを彼は望んでいた。


――そのためには基幹産業の成長促進を図らなければならない。自動車、石油、製鉄、造船……これらに集中した投資と生産規模の拡大を進める……。そのためにはさらに踏み込まなければならない。


 彼は杯を傾けながら未来航路を策定する。彼の目指す方向はまだ見えない。


「賽は投げられた……か……」


「カエサルか?」


「吉野さん……我々は統制主義へと踏み出したのです。結果を出さねばなりません。帝国の企業を強く育てていかねば……」


「そうだな。先日、傾斜生産方式と仮題した論文を俺に提出してきた奴がいたんだが……それがお前さんの考えているそれに近いものだったんだ。良かったら、お前さんも読むか?」


「傾斜生産方式……名前だけでも興味がわきますね」


「実に興味深いものだった……まるで見て来たかのようなものだったな」


 岸は先輩格の吉野信次の話を興味深そうに耳を傾ける。近く彼の元を訪ねることを約した。

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