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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2591年(1931年)

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ポツダム会議

皇紀2591年(1931年) 8月10日 中欧情勢


 8月7日、英独仏伊の四ヶ国の首脳はチェコ・ポーランド戦争の解決を図るべくドイツ・ベルリン郊外のポツダムはサンスーシ宮殿に参集、討議を繰り返していた。


 史実における対日降伏勧告であるポツダム宣言が協議されたツェツィーリエンホーフ宮殿はすぐ近くにあり、皇太子ヴィルヘルム・フォン・プロイセンはこの会議の開催に際して自邸であるツェツィーリエンホーフ宮殿において首脳を歓待したのである。


 会議の冒頭でヴィルヘルム皇太子は帝政復古運動がドイツおよびオーストリアでもにわかに盛り上がりつつあることを語り、国を追われたハプスブルク家のオットー皇太子とともに祖国におけるあるべき地位に戻り国を指導することを希望した。


 フランス共和国はそれに不快感を示していたが、大英帝国は明確な態度を示さず、イタリア王国は立場上、大日本帝国との関係でオットー皇太子復帰によるドナウ連邦形成を目指していることからヴィルヘルム皇太子に賛意を表明した。


 だが、もっとも不快感を示したのはドイツ=ワイマール共和国側だった。


「殿下、殿下はシュトレーゼマン元首相との約定で政治的発言をしないことと引き換えに帰国、ここに居住することが許されたのですぞ? それをお忘れになり、今この様な振る舞いをなさるのは言語道断。我がドイツ人民も殿下に賛成することはないでしょう」


 ドイツ政府から不快感の表明があった際にヴィルヘルム皇太子はまったくそれを意に介さなかった。


「卿はそう言うが、私の下には足しげく通ってくれる忠臣がいるのだ。その者の名を語ることはしないが、卿も良く知る者である。そして、この会議が開催されるにあたり、どことは言わぬが、我がドイツの誇る企業もまた私のために色々なものを用立ててくれたのだが、それを卿が知らぬわけではなかろう?」


 ヴィルヘルム皇太子のそれにドイツ政府関係者は引き攣った表情を浮かべた。


 自分たちを任命している大統領パウル・フォン・ヒンデンブルクもまた帝政復古派の一員であり、それを隠すことすらしない。彼の場合、オランダに出向いて亡命皇帝に時折報告をすることすら平気で行っており、実態は代行統治と陰で言われているのだ。


 それだけでなく、昨今、議席を伸ばしつつあるナチ党のヘルマン・ゲーリングなどは欧州大戦の英雄の一人であり、財界や社交界の受けも良く、財界も社交界も帝政復古派の工作が浸透している。


 ヴィルヘルム皇太子が時勢の風を読み、自邸とホーエンツォレルン家の持つ宮殿を活用して会議をリードすることを許した共和国政府高官たちは自らの過ちを悟らずを得なかった。


 会議初日は英独仏伊各国の利害関係の確認と態度の表明が主で早々に散会となった。会議の本番はどちらかと言えば議場ではなく、議場外であったと言える。ヴィルヘルム皇太子は議場外においてドイツ政府の存在感を完全に霞ませ自身が会議の主催者であると錯覚させるような君主としての振る舞いを見せていた。


 これによってイタリア側出席者もまたホーエンツォレルン家の健在ぶりを確信し、帝政復古に際しては支援を行うと口約束ではあったが彼に明確に伝えたのである。


 そして、会議は続く。


 されど独仏の溝が深く、妥結の方向性は見えていなかった。

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