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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2591年(1931年)

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真田丸

皇紀2591年(1931年) 6月23日 ユーゴスラヴィア ノイシャッツ


 ハンガリー陸軍機動師団は自転車を全ての歩兵に行き渡らせ、輜重部隊にまでも自転車+リヤカーを配備することで高機動を可能とし、22日にはベオグラードからの援軍がドナウ川に達するまでにノイシャッツ(ノヴィサド)にまで進出、各地で迂回して追い越してきたユーゴ軍を包囲してこの時点で2個師団相当の捕虜を得ていた。


 捕虜にしたユーゴ軍の武装を解除すると国内の警察から動員した警官隊を臨時編制し装備を与え、占領地の確保と治安維持に充てていた。


 23日の時点ではドナウ川以北、ティサ川以西を占領、これはヴォイヴォディナのおおよそ半分強に当たる地域を確保していることになる。


 ハンガリー政府と軍部は旧領土であるクロアチアには目もくれず、真っ直ぐにベオグラードを一路目指していた。これは少ない戦力による電撃戦である以上、他に取るべき策がなかったことが主な理由であるが、ベオグラードを落としてしまえばユーゴの中心地域が陥落したも同然であり、同時に工業地域の存在しないセルビアにしてみれば絶対に失陥できない場所であることを意味している。


「欧州と言えど、田舎は所詮田舎か。首都を抑えられては身動き出来ない水準の国家が列強たる我が帝国に楯突く時点で間違っているだろう」


 東條英機少将によってハンガリーに派遣された富永恭次少佐は観戦武官という建前で自分が育てた機動師団とともにノイシャッツまで出向いていた。彼は時折助言を求められ、適宜応答しているのではあるが、想像以上の快進撃を続けているハンガリー軍と兵力で上回っているはずのユーゴ軍の不甲斐無さとで複雑な気持ちであった。


 元々、騎馬民族であるマジャール民族と自転車の相性は非常に良かったと言えるのであろうか、先祖の血が騒ぐかの様に富永が示した銀輪電撃戦をあっという間に理解し、同時に戦国時代の故事をいくつか伝授すると彼らは平然と”車懸り”をやってのけ、”啄木鳥の戦法”すら別の演習でやらかしたのである。


――川中島合戦教えただけだと言うのに上杉と武田のそれをあっさりやってのけた……なんて奴らだ……流石に壇ノ浦の八艘飛びまでは出来んだろうが末恐ろしい。


 開戦前夜に手帳に記した自身の評価がしっかりと戦場でも示されていることに満足していたが、同時に不安を呼ぶものであった。


 開戦からこの方、戦国時代の故事による作戦を行うことはなかったが、迂回挟撃、包囲殲滅を繰り返したことでそろそろ敵に手の内がバレそうであると富永は感じていた。


「貴様らに教えていなかったことがある……勝って兜の緒を締めよ。戦が順調な時ほど警戒心を忘れるな。敵はドナウ川を渡ってから反撃を加えてくるだろう。今まで通りにはいかんと心得よ!」


 桶狭間のそれが脳裏に浮かんでいた富永だが、彼らにはその故事を教えていなかったなと反省しつつもそうならなければ良いがと内心思いながら司令部がドナウ川を渡るというので富永もまたそれに従い移動を開始したのであった。


 ドナウ川南岸には既にハンガリー本国から到着した機関銃部隊と重砲部隊が展開し橋頭堡として機能し始めていた。空堀と土塁を築いて橋を守る陣地が出来上がっていたが、それを見た富永は思わずつぶやいた。


「いや、これ、陣地じゃない……真田丸どころじゃないぞ」


 そこにあったのは陣地ではなく、18世紀に建造された稜堡式城郭ペーターヴァルダイン要塞であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ペーターヴァルダイン要塞といえばプリンツオイゲンの墺土戦争。オイゲン勝利の再現を果たせば何かが起きそうですね。
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