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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2591年(1931年)

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ところ変われば事情も変わる

皇紀2591年(1931年) 5月15日 ドイツ・オーストリア情勢


 史実において31年は独墺関係、そして独仏関係にも大きく影響を与える歴史イベントがあった。ヴァイマル共和制末期の31年3月の独墺関税同盟事件である。


 ドイツとオーストリアを一体とした経済圏とすることでこの危機を乗り越えようと考え、ドイツとの関税同盟(輸出入関税の廃止)をオーストリアが提案しドイツ側の了承も得て秘密交渉を続けていた、だがしかし、これが報道されるとジュネーヴ議定書4ヶ国のうち、フランス・イタリア・チェコスロバキアがこれを「経済的な合併」、即ち実質的な独墺合邦と見なして議定書違反であると抗議したのである。


 オーストリアとドイツは合併ではなくリヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーの唱えた「汎ヨーロッパ主義」に基づくものと反駁したが、猜疑心と潜在的敵国である独墺両国の一体化を脅威とみなす彼らにとって理由などどうでも良いことだったのだ。


 この問題を解決するために国際連盟の理事会や国際司法裁判所に持ち込まれ、諮られることとなったが、それ以前にフランスが大規模な経済制裁を発動したのである。このフランスの経済制裁がきっかけに5月にオーストリア最大の銀行であるクレジット・アンシュタットが破綻に至る。


 この事態でヨーロッパにおける恐慌を一層激化させることを恐れた他の欧州諸国の奔走によって3億シリングの追加借款案が提案され同盟交渉の断念に至った。


 この関税同盟交渉の行方がオーストリア・ナチスの台頭を招き、結果としてアンシュルスを加速させたことはフランスの戦間期外交の失敗の一つであると言えよう。


 さて、史実ではそういった状況であったが、この世界ではどうだろうか?


 知っての通り、この世界は若槻演説以来、大日本帝国が中欧の諸問題の解決をぶち上げ、高橋演説が止めとなり中欧諸国の暴発を招き、オーストリアは事実上の内乱状態でウィーン政府とインスブルックに籠る王党派が対立、独墺関税同盟どころではなくなっていた。


 オーストリア王党派は価値観を共有するハンガリー王国と連携を考え、秘密裏にイタリア・ローマにおいて会合を重ね、ベルギーに居住するオットー皇太子に何度か使者が送られているが、オットー皇太子は時期尚早として時機を得るまでは帝政復古には慎重であるべきと現時点での即位や目立った行動は控えると宣言していた。


「いずれ時機は来る。オーストリア及びハンガリー国民が私を求めるまでは私から動くことはしない。父の様に自分から乗り込んではその機会が失われる可能性が高い。旧帝国全体の臣民の統合の象徴として、中央政府の元首として皇室は大きく役割を果たすべきである。だが、今はまだ早い。まずは日本やイタリアの調停に期待したい。ただ、私はいつでも臣民の期待に応えんと考えている」


 オットー皇太子の目には旧帝国が再び統合され共に手を取り合う姿が見えているようだ。だが、その日はまだ先のことであると考えていた。


「オーストリアやハンガリーの君主として返り咲くのは難しい事ではないだろう。だが、それはあくまで個々の政府にとってのみであり、旧帝国全体の利益にはならないだろう。沿ドナウ連邦という枠組みで旧帝国全体の統合を目指さなくてはならない」


 彼らの為すべき役割は王党派が主導するのではなく、旧帝国の中核であるオーストリアとハンガリーにおいて帝政復古を受け入れられる土壌を作ることで臣民全体が望んだ形で帝都ウィーンへの帰還をお膳立てすることなのだ。


「大日本帝国の外交官たちに厚い友誼に感謝すると伝えて欲しい……我らの真なる友人は彼らである。不幸にして欧州大戦では敵味方に分かれたが、彼らの友誼は忘れてはいないし、彼らも忘れていなかったのだからね」


 エリザベート皇后号の一件を引き合いに出したそれは使者たちにも十分に理解出来るものであった。オットー皇太子の言葉に使者たちは主君たるそれを感じ自分たちの為すべきことを再確認しベルギーを離れた。

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