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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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会議は踊る

皇紀2583年(1923年)8月11日 帝都東京


 決裂した3日の定例会から数えて4回目の定例会がこの日総理大臣官邸で開かれた。第2回避難訓練は4日後と迫ったにも関わらず未だに方向性が見えない状態であった。


 その原因は総理大臣原敬と東京市長後藤新平の意見が悉く衝突を繰り返し、挙句、省庁や財界にまで飛び火して収拾がつかない状態になっていたのだ。


「だから、言っておるだろう! 建物疎開させるのは良いとして……必要なことだからな! だが、その住人に手当てせんことには協力を得られんだろう!」


 東京市の職員が政府から派遣された大蔵省の官僚に噛み付いている。


「そもそも、大蔵省(うち)の管轄じゃないだろう! 補助金くらいはなんとか捻出する方向で検討は出来るが、東京市で計画を立ててくれんことには大蔵省(うち)だって動けん!」


 大蔵省の官僚も正論で言い返す。


 彼らの論争は既に卵が先か鶏が先かというものになっている。カネを出してもらわないと計画を立てられないし説得出来ない……と主張する東京市、計画を出してもらえないとカネを出すことなど出来ない……と主張する大蔵省である。


 そこに内務省と逓信省の官僚が参戦する。


「道路整備は内務省(うち)の管轄だ。内務省(うち)にも話を通してもらえないと困る。それに帝都は河川や運河、堀が縦横に張り巡らされている。ここも内務省(うち)の管轄だ。東京市の概案では内務省(うち)に話が通っていないことが多い、それでは困る……当然、予算請求にも支障をきたす」


「道路整備を進めるならば、電信電話網の整備も併せて行うべきだろう。また、電気事業も区画整理には大きく関係するのだから、逓信省(我々)抜きで話を進められても困る……」


 一事が万事この調子で飛び火の連続で話が一向に進まないのである。


 震災対策協議会での議論は縄張り荒らしをやらかしていると各省の官僚には認識され、一枚噛ませろとばかりに政府は突き上げを食らっているのであった。


 結果、各省から官僚が派遣され、議論に加わった途端、混迷の度を深めてしまったのだ。


「諸君、少し落ち着き給え、ここは省益の追及や縄張り争いをする場ではないのだぞ!」


 たまりかねた後藤が官僚と市職員の争いを制止に掛かった。


「しかし市長! このままでは官僚どもの横槍で有耶無耶にされてしまいます!」


 市職員の悲鳴に似た訴えだった。


「いや、お前んとこの話が無茶苦茶だからこちらが迷惑しているんだ、そうだろう?」


 大蔵官僚が他の官僚の顔を見渡し代表して言う。


 推移を静観していた東條英機少佐は静かに立ち上がり、そして口を開く。


「建物疎開問題は心臓だ! 各省の主張にそのまま服したらこの震災対策協議会の成果を壊滅するものである。帝都の発展をも危うくする。さらに帝都市民の生命財産も危うくなる。帝都地震は十万人の死者、これに数倍する遺家族、数十万の負傷者が苦しむことになる……それでも省利省益を望むのか? それが陛下より預かった行政を担う者のすることであろうか!」


 東條の一喝によって官僚と市職員は黙り込んだ。


 事実、彼らの省利省益に基づいた発言や駆け引きは震災対策協議会のメンバーの反感を買っていて、彼ら自身もそれを肌で感じていたがゆえに東條の言葉に言い返すべき言葉が見当たらなかったのである。


「是非とも、建物疎開について、道路拡幅について、これらは各省、東京市の垣根なく、融通して取り組んでいただきたい……いざ地震が起きた時、建物倒壊や火災に巻き込まれるのは諸君ら自身でもあるのだ……その自覚を持って欲しい……小官からは以上だ」


 そして東條は座ると再び黙って議論の行方を見守った。

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