閑話 氷の大地の日常
皇紀2591年 4月18日 ソヴィエト連邦 イルクーツク
「なぜ物資が届かんのだ! これでは前線の補強も出来ぬし、モンゴル軍に与える武器すら用意出来ぬではないか」
イルクーツクにある極東赤軍司令部の主は補給担当の士官を叱責していた。
「同志ジューコフ、我々は適切な必要物資の要望を出し、モスクワはそれを約束しておりますが、届いたのは報告にある量だったのです……」
「馬鹿者が、ここにある量でどうやって優勢確保出来るというのだ? 私は老兵など要望しておらぬし、届いた戦車はなんだ、あれは? ここは試験中隊ではない! 前線だぞ! 雑多な形式統一も出来ていない戦車を送られてきても役に立つか!」
ゲオルギー・ジューコフは送られてきた補充戦力と補充品のリストを見て激怒していたのである。
所沢教導飛行団に活躍によって制空権が失われ、満足に航空偵察も出来ず、ハイラル前面に出現した縦深陣地によって地上からの斥候も無力化されていることで戦車の集中運用で突破口を作り、日本側の北満要塞線を突破しようと考えていた彼にとってこのリストにある戦力は激怒するのに十分な材料だった。
「T-35、T-18、T-26、T-27、BT-2、ヴィッカース6トン……戦車であれば何でもいいとか思っているの、あの馬鹿どもは……速度も性能もバラバラでどうやって戦列を組むことが出来ると思っているのだ」
「しかし、同志、この中でもいくつかの戦車は纏まった数のものがいくつかあり……」
「黙れ! 同志の言うまとまった数とはいくつだ? 中隊すら組めん数でまとまった数だなどと言わんだろうな?」
モスクワに文句をつける度胸もない補給士官は真っ青になってガタガタと震えている。目の前の上官に逆らうのもモスクワに文句をつけるのも結局は死と同義であることから当然のことだろう。
「いいか、同志、貴様は電話や書面ではなく、モスクワに直接掛け合って私が指示した数を揃えてき給え。良いな? 無論、数だけ揃えても役には立たん。補修部品なども確保してくるのだぞ」
ジューコフは有無を言わせぬ表情で彼に命じると退出を促す。だが、彼は足がもつれその場で倒れてしまう。
「怯える必要はない。同志がちゃんと職務を果たせば何の問題もないのだ」
ジューコフの言葉に彼は壊れた人形のように首を縦に振り、立ち上がると部屋を出ていった。




