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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2591年(1931年)

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国際連盟総会

皇紀2591年(1931年) 3月31日 スイス ジュネーヴ


 満州における小競り合いはチチハル邀撃戦による結果でソ連側が沈黙したことによって小康状態になったが、欧州情勢は混迷を極めていた。


 チェコスロヴァキアとユーゴスラヴィアは国際連盟に大日本帝国とイタリア王国を提訴したのである。そしてオーストリアもこれに同調した。特にチェコスロヴァキアは大日本帝国へ激しく抗議と損害賠償を要求したのである。


 対日抗議はチェコスロヴァキアの他、ユーゴスラヴィア、ルーマニア、ポーランドが同調する姿勢を見せた。これらは若槻演説によって半ば名指しでオーストリア及びハンガリーの国家主権を侵害していると非難された国家群であった。


「大日本帝国の欧州介入は地域秩序の破壊を齎した。オーストリアにおいて国を二分しての内乱が起き、今やユーゴスラヴィアにまで飛び火している……イタリア王国はこれ幸いとクロアチア人やスロベニア人を支援し、分離独立、自国影響下に置かんと企てている」


 チェコスロヴァキア代表は舌鋒鋭く日伊両国を非難する。


 だが、イタリア王国もこれに負けじと対抗する。


「そもそも欧州大戦の後の線引きに問題があったのだ。クロアチア人にせよスロベニア人にせよ、セルビア人が支配して良い道理などないのだ。まして、クロアチアとスロベニアは我が隣人。隣人が助けを求めておるのに知らぬ顔など出来ようはずがない」


 ベニート・ムッソリーニは大袈裟な身振り手振りで訴える。彼は国際連盟において提訴されるとすぐさま娘婿にして外相であるガレアッツォ・チャーノを伴いジュネーヴに乗り込んだのである。


「ここに参考人としてクロアチアの友人を招致している。スロベニアにも呼び掛けたが、彼は現地で戦いを続ける義務があると言って招致に応じることが出来ないことを詫びていたが……彼の言葉もクロアチアのアンテ・パヴェリッチが代弁してくれることだろう」


 そう言うと手招きした。


「私はウスタシャのアンテ・パヴェリッチである。クロアチアを抑圧し、同様に隣人たるスロベニアをも抑圧搾取するセルビア人の横暴に立ち上がった。私とともに戦うものは本国各地でセルビアの軍隊への妨害工作や実際に戦闘すら行っている。これに同情したイタリア王国からの支援によって我々は自らの国家を希求することが出来ると信じ戦っている……今やかつての支配者であるオーストリアも同じ立場となって苦しんでいると聞く……どうか、国際社会が正義と公正によって正しい判断を下すことを望む」


 パヴェリッチの演説は一面を語っていた。だが、あくまで一面でしかない。


「そこの叛乱分子の言うことに耳を貸してはならない! 奴らは国家の分断を企み、同胞を虐殺しているのだ! それを自分たちの都合良く事実を捻じ曲げて列強を誑し込んでいる。その証拠に大日本帝国の軍隊がアドリア海を航海している……彼らが我が領土を踏みにじる日も近いだろう! そう、満州事変と同じく、彼らは既成事実と利益の分配で欧州秩序を組み替え様としているのだ! 騙されてはならない!」


 ユーゴスラヴィア代表はヒステリックに喚きたてるが、彼の言うことに耳を傾ける国は少ない。


「我が大日本帝国は現時点のユーゴスラヴィア王国の領土内においてセルビア人によって他民族が虐げられている事実を掴んでおります。クロアチアのウスタシャによるセルビア人への”報復”も自業自得であると考えている部分があります……本総会が始まる前に各国代表にはユーゴスラヴィア国内における民族同士の対立とそれによる”迫害”について資料を手渡しております……我が帝国はウスタシャに対してもセルビア人への報復を行わないように要求し、それが容れられる場合、支援をすることをこの場で約しましょう……ただし、容れられない場合、ユーゴスラヴィア政府同様に統治能力なしと判断し、国際連盟もしくは責任能力のある国家による統治をすべきと提案します」


 大日本帝国代表として在スイス公使矢田七太郎はクロアチアの不法行為も認めないと明言したことで事実上のユーゴスラヴィアの国家解体、クロアチアの委任統治を提案したのである。


 これは国際連盟の根本的理念である民族自決の否認でもあった。責任能力のない、統治能力のない国家を否認することは事実上の中欧の枠組みを再構築することを意味していた。


「そのようなこと認められない! 国内問題である! 内政干渉は許されない!」


 大日本帝国による統治能力なしとの判定にユーゴスラヴィアはいきり立つが、隠し玉とは常に用意しておくべきものである。矢田はここぞとばかりに啖呵を切る。


「ほぅ……面白い。では、モンテネグロの後継国家である貴国とは戦争継続中であると看做すとしましょう。その場合、戦勝国が敗戦国を従わせることは道理でしょう。貴国程度であれば、我が皇軍の精鋭が蹴散らして御覧に入れるのは容易いこと。害がなかったためモンテネグロの宣戦布告は放置していたのですが、きっちりとツケを支払っていただくことも可能ですが如何?」


 矢田の啖呵は効果絶大であった。


 シベリア出兵後半の大逆転と『Banquet of demons(鬼たちの宴)』と称されたビキン攻防戦の一幕、そして支那動乱における所沢教導飛行団による膠州殲滅戦……これらが連盟諸国の代表団の脳裏に浮かんでいた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういや放置されたマンマだったね、モンテネグロの宣戦布告って。 それをこんな風に使うのか
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