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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2591年(1931年)

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529/910

陸王発動機株式会社

皇紀2591年(1931年) 1月1日 帝都東京


「な……なんだってー!」


 新年最初の朝刊に大々的な広告記事が載っていたこともあり、注目されることとなったのだが、この新聞広告に驚きを見せたのは有坂総一郎であるのは間違いなかった。玄関で新聞を受け取ってそのまま広げた総一郎は有り得ないモノを見ただけにその驚きに思わず叫んでしまったのである。


 新年のすがすがしい朝とは思えない彼の叫び声は当然であるが妻の結奈に届いている。


「……新年早々、なんですの?」


 彼女は不機嫌そうにジト目で彼を睨む。折角の正月である……いや、彼女からしてみてば年中無休で世界を引っ掻き回しているのだから正月くらいはじっとしていて欲しいというのがその表情からは読み取れる。


「それで何をそんなに驚いているのかしら……貴方の叫び声のせいで、私、御雑煮をひっくり返して少し火傷しているのですけれど?」


 不機嫌そうなに手を見せるが、確かに少し赤くなっている。


「悪い……いや、だが、これに驚かずにはいられない……。なんで、陸王が5年も早く登場するんだ? おかしいだろ……」


「……そんなことで一々叫ばないでくださいまし。そもそも陸王って何ですの?」


 陸王……この名を知らないバイク乗りはいないだろう。


 史実において大倉商事が輸入販売を開始した1917年、これがハーレーダビッドソンの源流だろう。無論、12年の帝国陸軍による輸入や個人的な輸入などは省くとしてだが……。


 この世界でもここにおいては同様であった。30年年末までは大倉商事による輸入販売によって日本国内におけるバイクの流通でハーレーダビッドソンの割合は非常に大きかった。その最大の顧客は帝国陸軍ではあったが。


 このハーレーダビッドソンの転機が来たのは史実と同じ31年である。31年の1月1日付で一つの企業が誕生したのである。陸王発動機株式会社……史実には存在しなかった企業が設立されたのである。


 史実において31年の大倉商事から三共へ販売ライセンスが譲渡され、日本ハーレーダビッドソンモーターサイクルが設立され、33年にアメリカのハーレー本社からライセンス生産の許可を得て製造ライン一式を導入しライセンス国産化に成功した。その後35年に三共内燃機へと社名変更。36年には帝国陸軍が九七式側車付自動二輪車を採用、同時に製品名を陸王と正式に決定し社名も陸王内燃機へと変更している。以後、陸軍向けに生産を続行し、戦後に経営不振によって倒産する。


 だが、この世界では三共に販売ライセンスが移譲されることなく、別の企業が大倉商事から譲渡される形で新企業を設立していたのである。


 結奈はバイクに詳しくないこともあって陸王が何かわからなかったが、ミリオタでもある総一郎にとって陸王とは特別な意味を持つ名称だ。


「戦前日本製のハーレーダビッドソンだよ」


「ハーレー? アメリカのバイク企業じゃない。陸軍さんが配備しているんでしょう、そんなに珍しいものでもないじゃない」


「いや、モノが珍しいということじゃないんだよ……陸王って名前は昭和11年に慶応義塾大学の卒業生である永井信二氏が母校の応援歌にある陸の王者ってフレーズから採用したものなんだ……」


「それで?」


「だから……製薬会社の三共の子会社に販売ライセンスが譲渡されたのが今年のことなんだよ、本来であれば、まだ大倉商事に販売ライセンスがあるんだ。永井氏は三共側の人物だからこの時期に命名されるということ自体が有り得ないんだよ……」


 総一郎の驚きと裏腹に結奈は常と変わらぬクールさを保ち続けている。


「じゃあ、川南さんや大角大臣みたいに独立系の転生者じゃないのかしらね? まぁ、バイク屋さんなんだから影響ないでしょう」


 彼女の言葉に総一郎は面食らう。


――こんな命名をする奴は絶対にミリオタに違いない。普通のバイクオタクがこんな命名をするわけがない。


 総一郎はそう思うが、彼女にはそれが伝わらない。


「そんなことで一々驚いていても仕方がないでしょうに……貴方が来ないと朝食が取れないのだから早く食卓に着いてくれないかしら?」


 確かに彼女の言うことは一理ある。たかだかバイクメーカーである。戦局に影響するようなことはないかもしれない。


「お……おう……」


 尚も状況の変化について伝えたいと思うが、伝えるべき適当な言葉が見つからず黙るしかなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通に転生者をかき集めて会議したらどうよとは思う。
[一言] 浪漫の追求なのです。
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