表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2591年(1931年)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

522/910

1931年時点での大日本帝国<6>

皇紀2591年(1931年) 1月1日 世界情勢


 東北地方への梃入れは当然のように帝国議会において大きく議論が湧くことになる。


「東北と言えば御一新の際に朝敵となった地域ではないか、であれば官軍に協力した我が県はより優遇されるべきではないか!」


「何を言うか、薩長閥が比較的衰退してきた今になってまだそのようなことを言うのか!」


「そもそも、西南戦争や佐賀の乱もそうだが、政府が一部特権層にのみ肩入れするのが問題なのだ!」


「未だに東北出身の将校は軍において肩身の狭い思いをしていると聞く、であれば、鉄道省や有坂コンツェルンが進める東北開発はまさに僥倖ではないか、今は農林省も賛同している……これによって東北農民が大いに救済されているというではないか!」


「我が県は御一新以後、衰退するばかりだ! 工場の進出もなく、都会にヒトもカネも吸い上げられている! 東北の次は我が県の救済を!」


 百家争鳴と言えば聞こえは良いのだが、その実態は喧々囂々といった様である。


 鉄道省が始めた列島改造、弾丸列車計画は順調に進み、物流革命を起こしたことで本州内のヒトモノカネの動きはより一層大きくなった。その結果、都市部へのヒトとカネがより集まるようになってきたのだ。


 便利さがゆえにモノが手に入るが、その分だけカネが流れてゆき、カネを得るためヒトが都市部へ流れていくという構図だ。


 だが、逆に帝都東京、大阪、名古屋などの大都市は許容出来る人口を上回るようになり、郊外へと人が流れていたのだ。これは阪急電鉄の小林一三、目蒲電鉄の五島慶太、箱根土地の堤康次郎などが主導になり郊外への人口分散と自身の傘下企業への利益誘導を狙ったものであるが、関東大震災の復興と都市再開発というタイミングが重なったこともあり郊外の庭付き一軒家は魅力的であり資産がある富裕層や官僚などの中層が揃って移住していたのだ。


 また、ニュータウン造成も20年代後半から始まり30年には概ねその開発も目標を達成し、新たな街が多摩丘陵や下総台地に出現していた。


 特に下総台地に造成されたニュータウンには千葉県内で産出される天然ガスを精製した都市ガス、下水道施設が整備され東京市内に住むよりも現代的であるとさえ言われ非常に好評であった。無論、ここへの進出は有坂総一郎が指揮を執る有坂コンツェルンが独占的に動いていた。


 だが、地方から押し寄せる人波を吸収することは難しく、30年には常磐線に対して並行線になるが新東京電鉄を設立、半官半民の一大プロジェクトとして新東京市建設が帝国議会において可決、史実における筑波研究学園都市に相当する新都市建設が進められることとなった。


 実質的な第二の帝都として整備を進めるものであり、行政機能の移転が可能であるように設計されている。表向きは大学、研究施設など帝都である東京に必ずしも存在しないといけないという理由がない施設が移転することで産業界にも移転を促し、人口の分散を図るというものであった。


 完全な計画都市として整備されるため、地上都市の整備だけでなく都市内の移動手段は地下鉄とされ、大深度地下には政府及び軍部が移転することを目的とした地下都市の建設も実行されている。


 また、同様に都市として独立させることから建設地区に存在する自治体は合併ではなく廃止による新設という形を取ることとなった。これは存続自治体と被吸収自治体というしがらみが出来ることを嫌ってのものであり、政府直轄の独立自治体として運用するためである。


 鉄道省は当初、常磐線からの分岐による新東京市へのアクセスを望んでいた。これは並行在来線となることから土浦~上野間における旅客減少に難色を示したことによるが、実質的な新幹線規格であり、尚且つ路線を当初予定よりも北である上野・越谷・野田・水海道を経由する形で建設することで合意に至ったのである。


 この区間の建設としたのは途中駅を極力減らすことが出来る点、東西軸の鉄道がないが南北軸の鉄道があることから従来の私鉄に大きく影響を与えないが東西軸という新しい需要を喚起出来ること、常磐線の顧客を奪わないということを満たしていたからである。


 また、この新東京市付近のニュータウン造成に関しての優先権は鉄道省が得ること、既存の常磐線沿線のニュータウン造成は民間主導という交換条件が交わされていた。このことには民間のデベロッパーが不満を漏らしていた。


「不満があるならそれでもかまわんよ、君たちの会社が重機を用意出来れば自前でなんとか出来るのだろうからね」


 鉄道省側の傲慢とも取れるそれには国内で出回る土木機械の多くを鉄道省や私鉄、軍部、財閥が抑えていることで民間に回る分が少ないことがあった。


 造成をしたければ否が応でも土木機械がある大手資本に頼らざるを得ない。だが、それらは他の自分たちの事業で手一杯であることから他社に貸す余裕などないのである。


 よって頼るべきところは鉄道省である。農林省に農道建設名目で貸し出していた土木機械が返還されてきたこともあり些かの余裕が鉄道省にはあり、民間に貸し出すことが可能であり、尚且つ格安であったことからだ。


 だが、そこに埼玉県、千葉県、茨城県が黙っているはずがなく、自県利益のために民間デベロッパーと結託し自県選出の衆議院議員を使って帝国議会に鉄道省の横暴と計画の見直しを要求し始めたのであった。


 結果、年末に至るまで新東京電鉄の建設とそれに伴うニュータウン建設は中断されたままとなり年を越してしまったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] 元から人工都市ですが、その原形どころか名前も残らないくらいつくば市が魔改造w 70年以上早い筑波エクスプレスの開業ですね! この時代だと用地の取得が楽なので、地下区間は少なくなりそうです 現…
[一言] 東北地方青森県出身としてはこのはとの東北地方がどうなるか気になります。まだまだ発展するでしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ